各地の住宅医の日々№65 兵庫県丹波篠山市にて 国登録有形文化財の建物詳細調査と丹波黒豆の旅

平賀 基香住宅医 / 仕立建築舎 / 兵庫県

2026年5月の御影公会堂。5月上旬に開催されていた神戸建築際2026でも賑わっていました。

兵庫県南東部、六甲山から南北に流れる川沿いの風景を感じながら、保育園の送迎から仕事へと気持ちを入れ替える日々を過ごしています。原稿を書いている5月下旬の今は、月末に行われるだんじり巡行の旗がゆらめき、春先には川の両岸にこれでもかと満開の桜が咲き誇る、私にとって大好きな場所のひとつです。
ひときわ存在感を放っているのは1933(昭和8)年竣工の御影公会堂です。清水栄二設計による、様式建築からモダニズムへの過渡期における貴重な現役の建築であり、竣工からわずか5年後の阪神大水害(1938)をはじめ、太平洋戦争の空襲(1945)、阪神淡路大震災(1995)の大災害に見舞われながらも修復を重ね、今なお地元の人たちの集いの場として親しまれています。
スタジオジブリの「火垂るの墓」でも焦土に佇む御影公会堂が描かれています。作品の中でも印象的な存在ですが、その姿は現在も変わらず地域に息づいています。隣接する石屋川公園には「火垂るの墓」の記念碑も設けられています。

さて、御影公会堂の竣工から遡ること約200 年。1734 年創業の小田垣商店(丹波篠山市、※1)の調査依頼(改修設計:株式会社新素材研究所(※2)をいただいたのは7 年前でした。2期にわたる調査に足掛け3年を費やした思い入れの深い物件について今回ご紹介しようと思います。

改修前店舗外観:軒下等を塗り込め妻面に水切り瓦がついた街道景観の要となる大型町家。

今後の敷地全体の構想を詰めるべく、まずは現状把握を、ということで意匠図・構造図一式の作成に加え、耐震診断(※3)、劣化調査等を進めました。

国登録有形文化財(A~Jの10件が登録)

敷地内には、江戸後期から大正初期に建築された大小10 件の国登録有形文化財をはじめ、その他にも数棟の建築物が存在していました。建物同士の接続部分も複雑で、これまでに都度改修された箇所も多く、全体像の把握には時間を要しました。

規模や建築年代に関わらず、調査の基本はまず建物の置かれている環境と履歴を読み解くことだと考えています。現地に行く前に、航空写真や地理院地図、JSHISの地震ハザードステーションなどから情報収集を行うことで、現地で重点的に確認したい点が見えてくることも多くあります。
今回は国登録有形文化財に登録されていたこともあり、文化遺産オンラインで各建物の規模・特徴を認識できたことが大きかったです。

店舗南側の中庭より 
店舗小屋組 店舗小屋組

第一期調査範囲は離れ座敷(D)と塀(I)を除く敷地の大半の建物が対象でした。店舗棟(A)の棟高は7M を超え、土間空間で天井が張っていない箇所が大半だったため、足元に注意しながらの緊張した調査が続きましたが、立派な梁が支えているので調査時の拠点を決めてしまえば、地上と変わらない感覚で調査を進めることができました。
改修設計をされた新素材研究所さんと優先順位を相談して、まずは意匠図と耐震診断、次に構造図の2段階で提出しました。耐震診断を行ったのは構造図を書く前ですが、野帳で必要な情報を把握できていたので可能でした。

現況立面図
©SHITATE Architects

前回の調査から3年後に実施した第二期調査は主に離れ座敷(I)と未登録の倉庫棟でした。第一期工事完了後だったため、改修前後を比較しながら建物の変化を体感できる貴重な調査となりました。


第二期調査中の離れ座敷2階から改修後の中庭、店舗方面を見る

最終的に全4期に渡って全棟を改修設計され、本店ショップに留まらず、カフェ(※4)や一棟貸しの宿泊施設(※5)なども展開されている小田垣商店さんです。

出典・改修設計:株式会社新素材研究所/杉本博司+榊田倫之(※2)©New Material Research Laboratory Co., Ltd. Photo©Masatomo Moriyama
(※2) (※2) (※2)

実は学生時代にも小田垣商店さんの近くの地区で数十軒の建物調査(※6)に関わったことがありました。今回久しぶりに丹波篠山を訪れ、当時と変わらない空気感に触れられたことも感慨深い経験でした。
今回は調査だけの関わりでしたが、店舗改修工事完了後に訪問し調査時のことに思いを馳せながら黒豆アイスを堪能し、近所でも購入できる(オンラインでも購入可)美味しい黒豆製品を子供と一緒に楽しんでいます。

今回ご紹介した小田垣商店さんと冒頭で触れた御影公会堂。いずれも国登録有形文化財ですが、御影と丹波篠山それぞれの土地で新たな息吹を吹き込まれながら、次世代へと受け継がれていく「生きた建築」の姿を感じています。
御影公会堂から小田垣商店さんへは車で約1 時間。戦前から脈々と続く伝統のオムライスを御影公会堂食堂で味わって、丹波篠山市へ豆の旅に出かけるのはいかがでしょうか。お酒好きの方は灘五郷巡りもお忘れなく(ドライバーの確保は必須です!)。

文章・図面:平賀 基香
Photo by Masatomo Moriyama (※2) , Hiraga Motoka  Copyright 2026 ©SHITATE Architects, jutakui

記事LINK (敬省略)
(※1)小田垣商店 https://www.odagaki.co.jp/store/
(※2)改修設計:株式会社新素材研究所/杉本博司 + 榊田倫之 https://shinsoken.jp/
(※3)限界耐力計算:秋山建築住宅設計室/秋山真一 https://aki47.com/
(※4)カフェ:小田垣豆堂 https://www.odagaki.co.jp/store/facility/
(※5)宿泊施設:豆家 https://www.odagaki.co.jp/accommodation/
(※6)小田垣商店から14km ほど東へ行った丹波篠山市の福住地区で伝統的建造物群保存地区への選定を目的に民家数十棟の実測調査と連続立面図を作成し街並みの構成を記録(その後、平成24 年12 月に国により重要伝統的建造物群保存地区に選定)。


LINK
・「建物詳細調査2015 静岡県興津」報告:平賀基香 https://sapj.or.jp/syousaityousa2015-43/
・住宅医の改修事例 №066 〜埼玉県「北秋津のいえ」三澤文子 平賀基香 https://sapj.or.jp/kaishuujirei-2017-66/