日本の既存住宅の現状

日本の既存住宅は様々な問題を抱えています。特に新耐震基準に改制された1981年以前に建設された住宅はの中には、大地震から生命財産を守るのに不十分な住宅が多く存在しています。また、住宅の温熱性能についても、省エネルギー基準が1980年に制定されて以降、1992年、1999年(平成11年)と基準の見直しがなされているものの、基準を満足した性能の住宅は極めて少ないのが現状です。このような既存住宅では、核家族・高齢化社会に対応した生活の環境を創ることができないことは明らかです。一方、空家率が高いことが示すように、安く速く、そして多くの住宅をつくり続ける時代は終わりました。これからは「造っては壊す」という短寿命の住宅ではなく、しっかりとした住宅をつくって大切に住み、次代に住み継いでいける長寿命住宅を目指す必要があるのです。
 そのためにも既存住宅は、寿命を延ばすことを目的とした適切な改修が求められます。その適切な改修こそ、既存住宅の問題点(病理)を把握し、それを治すといった、いわば治療としての改修なのです。治療としての改修には確実な調査診断が必要です。調査診断を怠った改修では、予想外の費用の発生や、性能が向上しないなど、様々なトラブルが発生するといった問題が起こってきます。
 改修にあたっては、まず物理的に、耐震性能、温熱性能、劣化、設備や配管、バリアフリー、防耐火性能等の項目に沿って調査診断を行い現状を把握します、そしてこの調査診断結果に基づいて、依頼者の生活スタイルや予算などの条件から、もっともふさわしい改修プランを提案していくことが求められるのです。

住宅医の必要性

今、既存住宅の現状を把握する調査診断技術を身につけ、さらに改修設計施工技術に優れた「住宅医」の存在が注目されています。既存住宅を新築住宅に近い性能に向上させるためには高い知識と技術そして実践力が必要です。住宅医協会では、このような人材を育成するために、2009年より「住宅医スクール」を開校しています。住宅医スクールでは、英国で学問体系として歴史のある「建築病理学」に基づき、住宅医の育成に努めています。
 さらに住宅医協会では、単に知識だけでなく、分析力、技術力、実践力が備わっていると認定した住宅医スクール修了生を「住宅医」として認定しています。
 このような住宅医による調査診断・改修が広まり、住宅医が地域で活躍すれば、歴史ある街並みや情緒ある古家がむやみに壊されることなく、設計者の無知が生む不適切な改修工事で、被害をこうむる住まい手も少なくなるでしょう。すなわち「治す力」を備えた「住宅医」こそ、今、求められている人材なのです。