「 不動産事業者 ( 買取再販 ) から見た、ストック住宅の性能向上について 」リレーコラム2024年11月

浜田 伸 住宅医スクール講師 / 株式会社プレイス・コーポレーション /  横浜市

| 中古住宅流通市場の拡大 |
新築住宅の大量供給によるフロー型の市場が長年続いたことで、住宅ストックが世帯数を上回り、空き家が急増しています。新築着工数が減少するなか、中古住宅流通が拡大してストック型市場に転換されることが期待されています。ここ数年の住宅価格高騰の影響もあり、中古住宅を積極的に選択肢に入れる消費者が増えています。中古マンションを購入して自分好みにリノベーションして住むというスタイルは既に確立されていますが、中古戸建の場合、そのようなスタイルは流行っていないようです。中古住宅流通市場には、リノベーションが施された状態で販売されている物件が数多くあります。買取再販物件と呼ばれるものです。中古マンションの再販物件がメインでしたが、中古戸建の再販物件も増えてきています。ただし、リノベーション済みと謳われている物件でも、その中身は床材、壁クロス、水廻り設備を交換しただけでサッシはアルミのシングルガラスのまま、という物件が数多く存在しています。
2025年4月から新築住宅の省エネ基準適合義務化がされますが、既存住宅では断熱等級3以下や無断熱住宅でも売買が可能です。不動産事業者(買取再販)の立場から、ストック住宅の性能向上について考えてみたいと思います。

買取再販業について

買取再販とは、中古住宅を前所有者から買い受けて、リフォーム・リノベーションを施して、再度、不動産市場で販売する事業モデルで、宅地建物取引業者が行なう不動産事業形態のひとつです。デベロッパーが土地を仕入れて開発分譲を行なったり、パワービルダーが新築住宅分譲することも不動産を仕入れて販売する行為ですが、買取再販事業者が取り扱う物件は中古マンション・中古住宅が対象です。売主と買主の媒介役となる不動産仲介業とも異なり、買取再販業者の収益源は物件の譲渡益・売却差益であり、仲介会社の収益源は依頼者からの仲介手数料です。
宅建業者によってリフォーム・リノベーションが施された販売物件は、不動産市場では「買取再販物件」「リノベーション済み物件」として取り扱われ、数多くの物件が取引されていますが、中古マンションと中古戸建の割合で見てみると中古マンションのリノベーション済み物件の方が圧倒的に多く、中古戸建の再販物件の方は少ない状況です。
その理由として、マンションと比べて新築時の図面やメンテナンス履歴の継承が途絶えがちで、建物構造や劣化状況の把握が難しく、違法性や隣地トラブルなどの問題を内包しているケースもあるため、不動産業のビジネスモデルとしてはリスクが高いことからプレイヤーが少ないことが挙げられます。また、リノベーション済み物件を購入するエンドユーザーの目線では、戸建住宅の隠れた瑕疵や保証に対する不安、耐震性や設備の劣化に対する不安、住宅ローン審査のハードルが上がることなどが挙げられます。
買取再販事業者が買い受ける物件は、築年数が経過しているなどの理由で建物が評価されなくなった「古家付き土地」や、所有者(使用者)が適切に維持管理を行わなかったコンディション不良な「空き家物件」が多い傾向があります。
買取再販事業者は、このような物件に対して自らリノベーションを施して、再び不動産市場に供給・販売することで、次の所有者へ譲渡するという意味で、古家や空き家を再生させて次世代にバトンタッチするという側面を持っているのです。


買取再販 × 長期優良住宅化リノベーション物件写真上: 葉山の家 下: 鎌倉の家)   

不動産について

不動産とは「土地およびその定着物(民法86条)」と定義されているように、土地と建物を指すことが一般的ですが、立木・橋などの工作物も含まれ、また、土地の定着物でありませんが規模や財産的価値が類似する船舶や航空機も不動産に準じて扱われることがあります。また、不動産登記法上も「不動産とは土地または建物(不動産登記法2条)」と定め、土地と建物は別々に登記することが出来るため、借地権や底地権などの権利が認められ、土地と建物の所有者が異なるケースが数多く見られます。
土地建物に対する海外諸国の扱いを見てみると、ドイツやフランスでは土地と建物は一体として扱われ分離して処分することは出来ず、アメリカでは州によって異なるようですが基本概念は土地と建物は一体とされています。また、土地の帰属先は国家(王国)や政府であり、民間人は使用権が認められているだけという国もあり、不動産の概念は様々です。
日本では、スクラップ&ビルド を繰り返して経済成長を遂げてきた背景があり、バブル期の象徴である「土地神話」があるように、古家を解体して更地にした方が売りやすい、買い手の需要が高いという風潮が未だに根強く残っており、建物を維持管理することが財産価値・資産価値につながるという意識が育たなかった背景があると思います。
しかし、土地と建物が別々の不動産として評価されるのであれば尚更、土地の価値偏重ではなく建物価値を重視することが求められるのではないか、建物 = 建築物に対して不動産業者はもっと謙虚に向き合うべきではないかと、私自身、恥ずかしながら数年前から考え始めたところです。

中古住宅の評価

買取再販 + 性能向上リノベーション された中古戸建住宅は、不動産市場でどのように評価されるのか。性能向上リノベーション済み中古戸建住宅の適正な取引価格はいくらなのか。最大の関心事でありハードルでもあります。
不動産価格査定(不動産鑑定とは異なります。)の一般的な手法は「取引事例比較法」で、査定対象不動産と類似する条件(土地においては立地・面積・形状・方位など、建物においては構造・築年数など)で取引された価格と比較して、対象不動産の価格を査定する方法です。実際に取引された不動産価格は不動産流通機構のデータベース等で調べることが可能です。この価格が、いわゆる実勢価格・相場価格と言われます。
一方、住宅取得の資金調達方法として住宅ローンがありますが、債務者個人の収入や勤務先などの信用情報を重視するクレジットローンの側面が強く、土地建物の資産価値を適切に評価するエクイティローンとは言い難いのが現状です。例えば、築40年の建物を長期優良住宅レベルに性能向上させたとしても、購入者の与信が低いと、住宅ローン借入が難しいという状況が生まれる訳です。
自治体による独自の住宅評価システムがあることをご存じでしょうか。新築の「NE-ST」、既存住宅の「Re NE-ST」で有名な鳥取県の住宅政策ですが、住宅評価システム「T-HAS」という仕組みまで出来ているのです。住宅の仕様や改修履歴、維持管理状況、省エネ性や耐震性といった住宅性能を加味した評価額を算定できるツールとなっているようで、とても期待を感じています。

アメリカ視察

2022年9月に、米カリフォルニア州(ロサンゼルス市とオレンジ郡)の不動産視察に行った際、いくつかのリモデル住宅の施工現場を見せてもらう機会があり、現地のコンストラクター(建設会社)から話しを聞くことができました。
「建て替えた方が簡単そうに見えるけど、なぜ、わざわざリモデルするのか」と尋ねたところ、「建て替えようとすると許可がおりるまで時間と手間がかかる。柱1本でも残せば許可が要らないから・・」という返事が返ってきて、「築年数が古いほど住宅の価値が上がる」ことについてもっと深い理由を聞けると期待していたので、意外にも現実的な答えに拍子抜けしたことを思い出しました。
不動産流通の仕組みでは、MLS(Multiple Listing Service)という流通システムの情報量と開示範囲に驚かされ、日本の不動産流通システムであるREINS(Real Estate Information Network System)とは比べものにならないほどの詳細情報が開示されており、このシステムがあるから中古住宅取引の透明性と安全性が守られているのだそうです。
日本でいう買取再販のことを、現地ではFlip(フリップ = ひっくり返す)と呼んでいて、中古住宅をリモデルして短期で転売する不動産投資モデルのひとつとして人気があるようです。
人口が増え続け、物価も所得も上がり、不動産価格も上がり続けるという、日本では考えられない現実を目の当たりにしてきたのでした。


ロサンゼルス市内 築70年のリモデル物件

ストック住宅の良質化

年数が経過した既存住宅にとって、所有者(居住者)が変わるタイミングはメンテナンスやリフレッシュができる絶好の機会です。買取再販とは、元のオーナー → 不動産業者 → 新しいオーナーへ所有権が移ることを指しますので、このタイミングで不動産業者がどのようなリノベーションを行なうかは、既存住宅の寿命を左右する重要な場面だと考えています。
買取再販 × 性能向上リノベーションによって、ストック住宅の良質化・長寿命化に貢献できるよう、これからも様々な課題と向き合って行こうと思います。

写真:株式会社プレイス・コーポレーション / 文章:浜田 伸
©Hamada Shin, Society of Architectural Pathologists Japan


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