なかつがわ森の木遊館オープン「公共建築・道の駅 住宅改修との違いで感じたこと」コラム2024年9月

塩田 佳子 ( 住宅医協会理事 / NPO法人WOOD AC ・スタジオすぅぷ / 岐阜県 )

猛暑中の今年8月4日、岐阜県中津川市付知にある道の駅を一部改修した木育施設「なかつがわ 森の木遊館」が開館しました。岐阜県内には、岐阜市の「ぎふ木遊館」、美濃市の森林文化アカデミー内の「モリノス」など岐阜県独自の人気木育施設があり、森の木遊館はそのサテライト施設・第1号です。実施設計と監理に携わりましたので、紹介をします。

オープニングでは子供達に読み聞かせが行われました

付知地区は、東濃ひのきや木曽五木(ヒノキ、アスナロ、ネズコ、サワラ、コオヤマキ)の産地です。平成2年バブル真っただ中、木造平屋、3つの六角形からなる「道の駅 花街道つけち」が営業開始し、現在は中津川市が管理しています。

改修にあたり、森林文化アカデミーの学生さんが教員サポートの元、基本構想を計画しました。木曽五木にちなみ、「木とかかわる暮らし・遊び・学び・文化・いきもの」をテーマにした5ゾーン分けや「森への入口」というコンセプトが提案され、そのまま設計に活かされています。
完成イメージ(岐阜県立森林文化アカデミー 学生プレゼン資料)


事前調査では、劣化箇所と木構造要素、現設備の確認を重点的に行いました。小屋裏では菌類の生えた合板が確認され屋根面改修となり、新しい屋根は森のイメージでモスグリーン色となりました。 


調査時:小屋裏合板の菌類

新しくなった外観

設備設計者と共に事前調査も行いましたが、店舗側への電気配線ルートの把握や30数年の間に取り換えられた機器類の把握、不要撤去機器の多さ、久々に触った水道埋設弁の動作不具合による追加工事、大型機器類の留め付け方法(公共物件は取り付け方もシビア)・・・多くの現場対応が必要となりました。店舗を営業しながらの改修のため、業者の皆様には休業日や営業時間外に合わせ工事して頂きました。

今回、建物全体に手を付けないため構造はあまり触れていません。屋根も重量がアップするカバー工法や通気工法は構造的に不利側になるため採用できませんでした。が、解体後の確認で仕口等に補強の必要性が生じ、市と相談して予算を取り、既存筋交いや柱頭柱脚を金物類で補強しました。また、小屋筋交いは強度と見た目を兼ね新材に取り換えています。

付知は省エネ地域区分4地域で、冬場の冷え込みが厳しい地域です。開口部は開閉箇所を限定して、FIX部にトリプルガラスを採用し予算を抑えながらガラス面の冷気に対応、かつ昼間の施設開放時間を優先し、全面日射取得ガラスを採用しました。予算と床下空間の確保が難しかったため、床下エアコンや床暖房に代わって素材であたたかみが実感できる30㎜厚のヒノキやスギの床材を採用し足触り良くしました。

維持管理では、既存のフッ素樹脂鋼板の屋根素材は耐久性を保っていましたが、谷部からの雨漏りが顕著でした。外壁もやり替えましたが、平屋で軒は1m以上出ていたこと、外壁の木塗装の色も濃く、外壁板張りの劣化は少なかったです。
当初にアカデミー生が描いたイメージを残すため、ウッドデッキを設けました。木素地を生かせるK4相当の防腐加工(加圧注入)材を採用しましたが、雨掛かりはやはり木材のひび割れが気になり始め、木材保護塗料の塗布をお願いしています。
維持管理計画書は、公共施設あるあるの予算取りを計画的に行えるよう、ざっくり費用も併せて提示し、日々の点検とともにスタッフの皆さんで共有していただくようお願いしました。これには以前弊社でまとめた岐阜県の低コストマニュアル事例集も参考にしました。

公共建築では設計書(見積書)で、解体数量も部材別にまとめる必要があり、見積用の調査項目も必要でした。また公共工事の設計変更はかなり手間を取るため、変更は少なくが鉄則ですが、今回は皆様に 作業をお願いしてしまいました。設備、構造、温熱計画、木材、施工、見積などあらゆる分野で専門の協力者が必要でした。

森への入り口として来場者を出迎える

無事竣工を迎えた森の木遊館は、付知の文化が育まれた森への入口として、来場者を出迎えています。外部・内部には県内の地域材がふんだんに使われ、室内には切株をイメージしたサワラとヒノキのシンボルツリーを配置し滑り台を設置しました。ガラス越しに周辺の山並み感じながら、赤ちゃん連れの親子や地域の子供たちに木の素材やたくさんの木のおもちゃに触れて遊んでいただいています。

木曽五木を並べたシンボルツリーの階段、この地域の桶の技術を活かした木桶のトンネル、ぎふ木遊館から寄贈された樹齢約400年のスギのベンチや木の玉ボール、随所に栗材や枝付のヒノキ柱が配置され、さらに木のおもちゃやオブジェが加わり楽しい空間を演出しています。点在する135角のベイマツの筋交は色を白く塗り存在感を減らしつつ、室内を緩やかにゾーン分けしています。

お近くへお越しの際は、どうぞ覗いてみてください。

塩田 佳子
©Shiota Keiko, jutakui


LINK
・なかつがわ 森の木遊館 https://www.city.nakatsugawa.lg.jp/works/forest/2/29471.html
・特定非営利法人 WOOD AC https://wood-ac.com/
・住宅医リレーコラム2022年「木造・非住宅施設の維持管理の現状 ~非住宅施設の木造化にかかる低コストマニュアル・事例集より」塩田佳子 https://sapj.or.jp/column221010/