昭和7年 木組みの民家改修にあたり ~コラム2025年8月
松井郁夫(住宅医スクール講師 住宅医 / 松井郁夫建築設計事務所 / 東京都)
弊所は40年にわたり様々な設計を行ってきましたが、改修設計を行う際に心掛けていることがあります。それは、改修で建物の性能を向上させること、奇をてらう余計な事をしないことです。今回のコラムは、埼玉県川口市に建つ民家です。元は織物工場を営んでいた方の町家で、昭和7年築の建物ですが、伝統的な木組で造られた古民家と呼ぶにふさわしい家です。
昭和年代には、道路側に木造建物で工場があったと言います。主家は祖父が建てたのですが、現在のご当主は古い家が嫌で、裏に新しい家をつくって住んでいました。最近になって自分が幼い頃を過ごした民家に戻りたいと思い始めました。
道路に面した土地はコンビニエンスストアに貸して、母屋を改修することにしました。
建物は「出桁造り」の関東らしい町家形式です。93年の風雪に耐えてきた架構は、むかしのままの伝統的な仕事で昭和の建築とは思えないくらい柱や梁も立派な建物です。ただし、内部は座敷の続き部屋で、暗く寒い家でした。
そこで、耐震性能と温熱性能の両方を向上させる設計としました。
まず、傾きを直しすために柱だけを残し骨組みだけの状態にして直しました。スケルトン改修と言います。建主さんは間取りの大きな変更を望まなかったので、架構はそのままとして「限界耐力設計法」により、板壁や足固め貫の耐力要素を加えました。
温熱性能の向上は床下を密閉して、約50坪の平屋を「第三種換気」により床置きエアコン一台で空気の流れをコントロールし温めることにしました。
南側に大きなガラス戸を断熱気密の良い木製窓を工夫して、屋根瓦は既存を葺き直し、外壁に外断熱を施し焼き杉板で包み込みました。増築部分の台所は最近の改修でしたが、材料も仕事も悪かったので取り除きました。
【断熱材】壁:フェノバボード25㎜,屋根:高性能グラスウール300㎜,床・基礎:スタイロフォーム50㎜、【構造材】古材
大きな屋根の下は小屋裏収納になっていましたが、今回ロフトにしてご主人の書斎になりました。
古民家の再生でありながら、大きな木製窓の外観がモダンです。貫を切らずに補強して耐震を向上させ、外断熱と気密の向上で「温熱改修」し省エネを実現した事例です。
【開口部】木製オリジナル建具,樹脂サッシ(共にペアガラス) 、【外壁】焼杉板
■川口の家建築概要
| 延床面積 | 156.09㎡(47.2坪) |
| 建築費 | 約6,000万円( 2020年7月 竣工時 ) |
| 設計 監理 | 松井郁夫建築設計事務所 |
| 施工 | 山口工務店・神谷棟梁 |
| 構造監修 | 悟工房 |
| 温熱監修 | 夏見工務店 |
文章:松井 郁夫
© 松井郁夫建築設計事務所, jutakui
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