№0079〜熊本県益城町 震災復旧工事

■改修事例報告
■改修概要
施工:新産住拓株式会社
設計者:蓑崎寛規
築年数:平成9年 築19年(調査時)
主用途: 専用住宅
構造・階数: 木造2階建て
敷地面積: 464.88㎡
建築面積: 135.44㎡
延床面積: 199.97㎡ (1階125.97㎡2階74.00㎡)
現地調査:2016年6月23日
着  工:2016年8月
竣  工:2016年11月 (工事期間3か月)
改修内容:基礎傾斜修正、耐震性能向上、断熱性能向上、設備機器の更新など
補助金 :益城町宅地復旧支援事業
■現況状況
基礎 :鉄筋コンクリートべた基礎
外壁 :サイディング70~80mm+吹付タイル
断熱材:床ポリスチレンフォーム90mm、壁・天井ロックウール75mm
内壁 :石膏ボード12mm+ビニルクロス
床材 :1階 15mm桧フロア仕上+12mm合板捨貼 根太転ばし@303
2階 12mm合板フロア仕上+12mm合板捨貼 根太転ばし@303
■熊本地震 被害状況
2016年4月14日21時26分に前震、4月16日1時25分に本震と、熊本は立て続けに2度という、今までに経験したことのない大地震に見舞われました。
次の日から弊社は全社員と施工パートナー総出で震災対応チームを編成し、被災地へ応急修理に向かいました。
そういった震災対応をを行う中、私たちは益城町の馬水地区へ向かいました。
この馬水地区も震災被害の多い地域で、道路は波打ち、道の両側の家も倒壊して通行できず、通れる道を探しながら何とか辿り着きました。
今回ご紹介する物件は、敷地の土留めブロックが崩壊し、地割れが発生して建物は東側に125mm下がり、設備配管も破損していました。
近隣の建物が多数倒壊するなか、傾きはしたものの自立して立っていたため、応急修理にお伺いしたのを切っ掛けに、
お施主様より復旧のご依頼がありました。


■改修要望
はやく水平に戻して、震災前の生活を送れるようにしたい。
耐震性・断熱性を上げたい。
給排水設備機器を一新したい。
2階の子供部屋を和室から洋室に作り替えたい。
・改修前 1階平面図                                          ・改修後 1階平面図
 
・改修前 2階平面図                                      ・改修後 2階平面図

■床レベル補正
SWD法による地盤調査で地盤深さ15mまで貫入試験を行ったが、N値は6程度までしか出ませんでした。
 
支持層が見つからない事と 、コスト面から土台から上のジャッキアップを採用することといたしました。

目的: 不同沈下の矯正の為、油圧ジャッキにて揚げ家を行い、
木構造部分の安定性を確保する。
仕様: 大引きまたは柱下に油圧ジャッキをセットして建物を揚げる。
使用機械: 5・10・15ton 手動油圧ジャッキ
連動ジャッキ 油圧バルブ
電動ピック 他
ライナー鉄板 1.2mm、2.3mm、4.5mm、9mm
施工手順:
①基礎開口および斫り解体工事:
床下から現状の基礎形状及び土台の継ぎ手及び仕口を把握した上で、
ジャッキセット位置を決定し基礎部分をジャッキが入る最低限ハツリ取る。
②ジャッキセット:
ジャッキを所定位置へ設置して、高さ調整または土台保護のため
土台下へ鉄板を入れる。
③ジャッキアップ:
ジャッキアップ量5mm程度を1サイクルとし、壁の変形等を観察しながら
所定量までジャッキアップを行う。
④受け方:
原則としてジャッキの両側受けとし 1.2~9mm の鉄板や鋼製束を用いて、
土台と基礎の間に叩き込む。
⑤基礎充填:
ジャッキアップに伴い発生した土台と基礎の空隙にモルタルを詰め込む。
⑥基礎復旧:
ジャッキを取り外した部分はコンクリート表面の粉化物等を除去し、
モルタルで隙間なく充填を行う。
揚げ幅の大きい部分、斫り出したアンカーボルトの補修として、
横方向の鉄筋配筋を実施し固定する。
⑦床受け:
生活に支障をきたさない様、床束高さの調整を行う。
①アンカー斫り出し

②油圧ジャッキセット

③ジャッキアップ

④受け方

⑤基礎充填

⑥基礎復旧

約1ヵ月かけて床をほぼ水平に戻し、一部の床を解体して微調整を行いました。
床レベル補正前                                                               床レベル補正後
  
 
 
■劣化対策
外壁の破損はサイディングの土台付近や窓周りのクラックや欠けなど、比較的軽微でしたので補修のみとしました。
内壁は石膏ボードのクラックや剥がれが多数ありましたので全て剥がしました。
また、敷地が崩落したために給排水配管類が破損したので新たに配管を行いました。

■耐震性
基礎は地盤の崩落により東側に大きく傾いたが、大きなひび割れは発生していませんでした。
土台や柱等の構造躯体も破損は無かったが、内壁を全て解体するのに伴い、さらなる耐震性能の向上の計画を立てました。
                          
■断熱性
壁断熱材の新築当時の施工法は柱の内側に留めつけてあり、また包装も劣化していたため下にずり落ちて断熱の連続性が失われていました。
 
高性能グラスウール16k厚み100mmへと入れ替え、現在の施工基準に則って隙間なく施工しました。

■統括

耐震性以外の性能はあまり上がっていませんが、そもそもの目的はお施主様に震災前の平穏な生活を送っていただくことでした。
震災直後ということもあり、施工パートナーや建材の手配に苦労しましたが、外構工事まで年内に完了し、
お施主様も仮設住宅から戻ってくることが出来て喜んでいました。
熊本では震災から2年以上たちました。
解体工事は随分と進みましたが、まだまだ屋根にはブルーシートで覆われた屋根や、外壁が大きく崩れ、修理を待っている家が見られます。
また、人手不足や資金面から、未だに仮設住宅から自宅へ戻れない方もいらっしゃいます。
先日、私の大好きな熊本城の天守閣の屋根瓦にシャチホコが戻りましたが、周りの石垣の復旧はまだまだです。
今回の震災の経験を通じて、私たち住宅医の使命は人々の生活や命を守るモノを作ることだと実感しました。
今後も住宅医スクールで学んだことを実践して、一日でも早く熊本の皆さんに笑顔が戻るように
住宅医として様々な改修工事を行っていきます。
熊本県 新産住拓株式会社 リフォーム事業部 蓑崎寛規