№0078〜熊本県菊池市 築60年の長期優良住宅化リフォーム

■改修事例報告
■改修概要
施工:新産住拓株式会社
設計者:松野 洋二郎
築年数:昭和28年 築60年(調査時)
主用途: 専用住宅
構造・階数: 木造2階建て
敷地面積: 920.99㎡
建築面積: 164.85㎡
延床面積: 207.19㎡ (1階164.85㎡2階42.34㎡)
現地調査:2014年12月
着  工:2015年9月
竣  工:2015年12月 (工事期間4か月)
改修内容:耐震性能向上、断熱性能向上、間取り変更、設備機器の更新など
補助金 :長期優良住宅化リフォーム推進事業を使用
■現況状況
基礎 :玉石基礎+延べ石基礎+一部土間コン
外壁 :真壁造り 土壁厚約70~80mm+漆喰壁
断熱材:床、壁、天井 全て無断熱
内壁 :和室  土壁+聚楽塗
その他 :大壁 胴縁+プリント合板4mm
床材 :1階「21mm厚板仕上 火打なし 根太転ばし@333」
2階 :根太天井+フローリング張り 火打なし
接合部:接合部Ⅳ:3kN未満(ほぞ差し・釘)
■ご相談から竣工まで
初めてご相談を受けたときは築60年になった古い建物が本当に良い建物になるのか?
壊して新築したほうが良いのではないか?ということでリフォームするか非常に心配され悩まれておりました。
物件を調査した結果、一部白蟻被害はありましたが部材の取り換えすることで十分良い建物になると判断して改修工事を進めていきました。
長期優良住宅化リフォーム事業の補助金が使えましたので、省エネ性能向上、断熱改修や耐震改修につながるように提案をしていきました。

■改修希望内容
古い材など生かした間取り
収納が多くて明るい部屋
古くなった水回り設備の一新
断熱性能を上げたい
家の中の段差を無くしたい

 
改修前 1階平面図

 
改修前 2階平面図

 
改修後 1階平面図

 
改修後 2階平面図

 




 
 
■劣化対策
ユニットバス工事、床下白蟻防蟻処理、床下一部土間コンを打ちました。
外壁は真壁仕様だったので柱、梁など風雨による劣化が見られたので、
構造躯体を保護する意味も兼ねてバス板モルタルの大壁仕様(付け柱@一間)としました。
■耐震改修提案
耐震性能:構造評点0.43から1.0へ
1階の東側は既存を残す模様替えであったため西側壁の強度を上げすぎると配置バランスが悪くなり剛芯がずれていきました。
剛芯がずれてしまうと低減係数で減点されてしまうので耐力の小さい壁をバランスよく配置していくようにしました。
耐震構造評点も1.0をやっとクリアする程度であったため今後は1.5以上を目標値として提案していきます。
耐震診断一般診断

 
壁補強計画

 
■断熱改修対策
床・壁・天井と無断熱状態でした。
改修前Q値7.43 UA値 2.53
改修後Q値3.67 UA値 1.24(改修していない箇所含む)
・床は充填断熱:押出法ポリスチレフォーム保温板50㎜
・外壁は既存土壁+グラスウール10K100mm。寒さ対策をとるため一部壁面は
押出法ポリスチレフォーム保温板50㎜を内壁に貼って断熱対策をとりました。
・天井はグラスウール10k200mm敷き込み。
・アルミサッシはアルミ樹脂複合サッシ+LOWEガラスとしました。
・断熱対策は未改修部もあるため、現行基準の断熱性能には至りませんでした。
改修部と未改修部との断熱をどう考えていったが良いのか?壁が土壁の断熱の取り方をどうしたら?
など今後の断熱改修の提案課題が見えたところとなりました。

■省エネ、バリアフリー・火災計画
省エネ効率を高めるため給湯器は高効率のガス給湯器に取替。水栓は節水型、
照明はすべてLEDにして省エネ設備を積極的に取り入れました。
バリアフリー計画は家の中の段差を無くしました。昔の土間部分は梁が低い位置にきているため
間取りの計画も梁の高さを考慮しながら邪魔にならないように計画しました。
居室の出入口の幅は75センチメートル以上、浴室の出入口の幅は60センチメートル以上を確保しました。
廊下幅は780mm以上を確保。玄関上がり口、トイレ、浴室・階段には手すりを設置しました。
火災時の安全対策として2方向避難できるような間取り計画しました。
火災発生時の避難を容易にするための対策として、早く火災を察知して迅速に避難を開始するために重要な連動式の
「火災報知器」を各居室・寝室・台所・階段上部に設置しました。それに加えて消火器を設置しました。
軒裏の防火性能確保は化粧垂木のままでしたので軒裏部のみ防火性能の確保はできませんでした。
 

■統括
ご相談から現地調査プラン提案設計見積もり契約詳細打ち合わせ工事管理完了検査引き渡しまで担当させていただきました。
改修工事相談から工事完了引き渡しまで約1年がかりでした。
祖父の代から受け継がれた家を守っていきたい。自分の代で無くしたくない。と言った家主の想いを形にすることができ大変喜んでいただけました。
段差も無くなった。家の使い勝手も大変よくなった、冬はとても暖かくなった。暖房一つで十分になったと言っていただけました。
そして、お引渡しから約4か月後、熊本県上益城郡益城町を震源とした熊本地震が起こりました。
2016年4月14日(前震)16日(本震)2度に渡る震度7、過去に例のない大地震。この建物も最大震度6強の大地震に被災しました。
ただ幸いにも被害はほぼゼロの状態でした。耐震改修工事まで意識して提案計画していなかったらもっと被害が多く出ていた可能性もありました。
改めて耐震設計の重要性と耐震工事を担う建築士の必要性、それに耐震工事を担う責任感を感じました。
その年の2016年、住宅医スクールの講習を受講いたしました。その時初めて住宅医と言う言葉を聞きました。
住宅医スクールは治す力を持った設計者を育成するところ、改修のスペシャリストを育成するところです。
住宅医スクールでは劣化対策、耐震対策、断熱対策、省エネ対策、バリアフリー対策、火災の安全性や予防対策といった様々な角度から
建物の性能を数値化して点数をつけ改修設計をしていく手法を学ぶことができました。
改修工事をすると面白さや難しさを常に感じますが、住宅医スクールで学んだことを実践できるように、今後も改修工事に携わってまいります。
熊本県 新産住拓株式会社 リフォーム事業部 松野 洋二郎