№0070〜静岡県「T様邸減築改修工事」

改修事例報告
有限会社 青木工務店 萩尾聡子
■設計・施工担当、報告 : 有限会社 青木工務店 萩尾聡子
■所在地 : 静岡県三島市
■用途  : 一戸建て住宅
■建設年 : 昭和60年(築31年)
■規模  : 木造2階建て
■改修規模: 1階床面積  101.02㎡(30.50坪)→ 107.44㎡(32.43坪)(増  6.42㎡)
2階床面積  66.24㎡(20.00坪)→    0㎡      (減 66.24㎡)
延床面積   167.26㎡(50.50坪)→ 107.44㎡(32.43坪)(減築 59.82㎡)
■改修時期: 2016年4月~2016年8月
■補助金等: 長期優良住宅化リフォーム推進事業採択
しずおか木の家推進事業(リフォーム)
■建物概要
T様邸は、静岡県三島市の中心部の住宅地にあり(築31年)周辺もほぼ同じ年代頃の築年数の御宅が多い地域です。家族構成や生活スタイルの変化等に伴い、耐震、バリアフリーに対応した改修工事を御希望されました。お子様は独立され遠方に暮らしておられ、お母様の将来の生活を一番に考えて欲しいとご希望でした。
初回の打合時、御施主様のご希望として、現在の御宅におひとりで住まうには、広すぎると感じておられ、特に2階部分が管理、防犯上も不安があるとのこと、耐震上の不安もあるとのこと、また、床屋さんとして営まれていた元店舗部分等を含めました、建物への想い出を強く持っておられ、当初から2階を全て無くし現在の建物を活かして平屋建てに改修する、減築という形を第一に強くご希望されておられました。
   
【写真①】改修前外観              【写真②】改修前内観
 
 

【改修前 1階平面図】             【改修前 2階平面図】
 
1階西側道路に面し、元床屋さんの店舗スペースがあり、玄関を入り、奥に和室3室、DK、の居住スペースとなり、北側、南側は建物が近接し、普段の生活場所を暗く感じておられました。一番日当たりの良い元店舗スペースは全く使われていない状況でした。2階も使われておらず、洗濯物を干しにいくだけの状態とのことでしたので、おひとりで住まわれるのには広すぎると感じられていらっしゃいました。
■建物調査
2016年3月4日住宅医の方々にご協力頂き、建物調査を行いました。

【写真③】調査の様子 内部(木部)     【写真④】調査の様子 外部
<劣化状況>
調査の結果、外部は15年前にメンテナンスを行われており、大きな劣化は少なく、内部は表面の仕上げ材の劣化等は見られましたが、構造部は床下の乾燥状態は良く、木部の劣化は少ない状況でした。
<耐震性>
平面図でみますと2階の入り組んだ箇所や南面等の外周部壁下に、1階に壁の無い箇所等が見られました。
基礎:鉄筋が確認され、布基礎、防湿コンクリートが施工されていました。
木部:ホールダウン金物はありませんでしたが、筋交いプレート、羽子板、火打金物等仕様されていました。
一般診断にて、0.92 (一般診断 耐震診断ソフト 「木造住宅の耐震診断と補強方法」
改訂版一般診断ソフト・精密診断ソフト(精密診断法1) 静岡県建築士会)
<温熱・省エネルギー性能>
外皮平均熱貫流率UA 1.37W/㎡K (6地域 基準値  0.87 W/㎡K )
天井・壁・床下はグラスウール50mmが施工され、断熱材の脱落、劣化等が見られました。
開口部は、アルミサッシ、シングルガラス。開口部数、面積が大きく、熱損失割合が大きい状態でした。
 
■改修内容
建物詳細調査により、当時の施工状況が良く、劣化が少ない状態が解り、御施主様は安心して改修の方向性への気持ちを固めておられ、プランのご要望として、
・お二人の娘様のご帰省時の和室2室が必要
・寝室として、和室8畳
・元店舗部分をリビングとすること
等が主な内容として、大きな間取りの変更はご希望ではありませんでしたので、現状の位置を活かしながら、バリアフリーの生活への変更と、無垢の自然素材を内装仕上材として使用しました。
<耐震性>
2階を全て減築することで、耐震性能は大きく向上し、1.5以上の数値となりました。ホールダウン金物を設置し、改修箇所で金物の入替・新規設置等を行いました。
<温熱・省エネルギー性能>
屋根を全て葺き替えの為天井部分は全て断熱材を入替とし、床下部分も全て入替施工致しました。壁部分に関しましては、全て断熱改修を行うことは費用や工期の点で難しく、エリア分けをし、断熱改修を行いました。ご帰省時のみに使用される和室は真壁の意匠を活かすこととし、壁は仕上げのみやり替え、その他部分の壁断熱材を入替ました。壁の断熱材を交換出来ない部分は天井裏や床から気流止めを施しました。
改修後、UA値 0.78W/㎡K となり、6地域 基準値をクリア致しました。
 

【改修前 熱損失計算】   【改修後 熱損失計算】
 
 

【改修後 1階平面図】  (×:柱移動箇所)   【改修後 2階平面図】
 
 

 
【改修計画 温熱・省エネルギー計画】
■工事
・解体工事

【写真⑤ 解体工事(外部)】        【写真⑥ 解体工事(内部)】
 
2階部分を解体しながら、平屋の小屋組を行いました。既存2階部分の構造材を活かしながら、新規の小屋組材を手刻み加工としたため、既存2階をブロック分けし、解体、屋根組を行いました。既存の柱、梁等の構造材を活かしたことで、御施主様はとても喜んでくださいました。今回はタイミング良く梅雨前に屋根工事が完了することが出来ましたが天候を考慮しながらの工程は仕上工事に影響を及ぼす為、次回は仮屋根を架ける等の工夫を行いたいと思っております。
・木工事

【写真⑦ 構造金物設置】         【写真⑧ 断熱材入替】
 

【写真⑨ 断熱材設置・無垢床板張り】  【写真⑩ 外部一部左官壁下地工事】
 
■完了

【写真⑪ 改修前外観】               【写真⑫ 改修後外観】
 

【写真⑬ 改修前 元店舗】         【写真⑭ 改修後 LDK】
 

【写真⑮ 改修前 和室】           【写真⑯ 改修後 和室】
 

【写真⑰ 改修前 DK】         【写真⑱ 改修後 LDK】
 
 
 

【性能診断結果概要 改修前】           【性能診断結果概要 改修後】
 
築31年と築浅の御宅であり、施工状態、メンテナンス状態も良かったため、既存の構造を活かしながら、改修を行うことが出来ました。住宅医スクールを受講させて頂いた後、住宅医の方々にご協力頂き、詳細調査をした上での改修計画、施工を行うことが出来たことは、計画、打合、現場での対応においてもとても良かったと思います。
また、長期優良住宅化リフォーム事業の採択を受けることができ、併せてリフォーム瑕疵保険を利用する事などで、大規模改修におきまして、お施主様が安心して工事を進めさせて頂くことが出来たと思います。
解体・木工事に関しましては、天候の影響等、難しい点も数多くありましたが、活かす部分と、新規部分との取り合いの工程が非常に重要であると実感致しました。内部造作工事では、既存の柱、下地の歪み等の調整に手間を取られることも多く、断熱、気密工事への配慮を今後は更に図りたいとの課題があります。
電気、給排水工事等におきましては、既存利用か新設かの選択、既存と新規配線配管との取り合い、工程において木工事との調整等、課題が多くありました。
既存の構造材を活かすことが出来たこと、仕上に無垢の床板等あたたかみのある材料を使用した事等とても喜んでくださいました。
減築工事を行うことは、御施主様にとって非常に大きな決断であったと思いますが、何よりも、その建物で過ごされたご家族の思い出を残したいという強いお気持ちを感じました。また、娘様たちが帰省された際にあたたかく迎える、以前と変わらない場所、が大切だと感じました。そのような点をふまえ、壊しながら、残しながら、新しく、と進めさせて頂きました。2階を全て減築することは費用面でも大きく占め、改修計画におきましては様々なプランが考えられると思いますが、将来の生活への「不安を取り除く」というご希望を叶えられることが出来、安心して住み続けることが出来る、と御施主様はとても喜んでくださいました。
この度の御宅の改修工事を通しまして、それぞれの御宅に応じた、そして暮らし方の変化に対応できる適切な改修計画、また、改修現場で生じる事象への適切な対応が大切だと実感致しました。工事を任せてくださいました御施主様に心より感謝の気持ちで一杯です。調査にご協力くださいました皆様、改修工事に関わってくださいました皆様、本当に有難うございました。