№0069〜滋賀県「甲賀のいえ」改修事例報告

設計者:MSD/三澤文子
報 告:佐治あゆみ
所在地:滋賀県甲賀市
主用途:一戸建ての住宅
築年数:築100年以上(詳細は不明)
規 模:木造2階建て
建築面積:167.63㎡ (50.71坪)
延床面積:259.20㎡ (78.39坪)
着  工:2016年1月
竣  工:2017年2月
(工事期間13ヶ月)
長期優良住宅化リフォーム推進事業採択
今回の改修報告は2015年7月に詳細調査を行った築100年以上の民家です。
過去の調査報告はこちら↓↓↓
https://sapj.or.jp/syousaichousa2015-51/

△改修前の外観                 △改修前の内観
甲賀市は忍者の里で有名な場所。風情ある瓦葺きの立派な民家が多くあり、趣がある風景の一角に「甲賀のいえ」があります。今回の改修は築100年以上の母屋を息子さん家族へと引き継ぐための全面リフォームです。
 

△改修前1階平面図                     △改修前2階平面図
 
【改修計画】
玄関・仏間・和室・縁側は既存の雰囲気をできるだけ残し、北側のキッチンダイニング・水廻りは使い勝手よく今の生活にあったプランに変更しています。また道路境界ぎりぎりまで迫っていた西側の建物の一部を撤去する事で南庭と北庭の通路を確保しています。

△改修後1階平面図

△改修後2階平面図
【解体工事】
詳細調査にて蟻害や腐朽の確認を行いますが、解体後に分かることも多くあります。
改めて材寸や劣化具合を確認し、劣化している材は撤去、構造計画も再度確認します。

△解体中の様子
【基礎工事】

△土台据えの様子
捨てコン打設後、まずは土台を鋼製束で支えながら据え付けていきます。
住宅医スクールの講義にて紹介されている工法です。

△配筋の様子
既存基礎に新規基礎を抱かせて補強する方法もありますが、
ここでは、既存基礎を全て撤去し、新規に配筋・コンクリートを打設しています。

△コンクリート打設後の様子
【屋根工事】
既存の母屋・桁・棟木等は残し、それ以外は撤去しました。
耐震性等を考慮し、土葺き瓦から桟瓦葺きに変えています。
新規垂木の上に構造用合板を張って屋根の水平構面を確保しています。

△屋根解体後の様子

△新規垂木の上に合板張り

△外張断熱:フェノバボード(ア)90
耐震性能を確保すると共に、外張り断熱で断熱性も向上します。
 
【躯体補強工事・耐震改修】
既存建物の耐震要素は土壁がメインで、壁も少なく低い耐震性能でした。
既存3間続きの部屋を残しながら、新たに構造用合板で耐力壁をつくり耐震性を高めています。



△躯体補強の様子
腐っている柱・梁は撤去の上、新しい材をいれています。また構造耐力上必要な材やプラン上必要な材も追加しています。
 

△接合部検査の様子
構造計算をお願いしたTE-DOKの河本さんと田畑さんに現場へ来ていただき接合部検査を行っていただきました。改修は新築と違い、梁も柱も成型ではなく、規定通りにはいかない事ばかり。。。
構造の専門家に現場を確認してもらい、職人さんも交えて補強方法を相談できるのは大変嬉しい機会です。
 
【竣工写真】(左が改修前、右が改修後)
□北側外観
既存の趣を残しながら、雨仕舞を考慮して一部屋根の形状変更をしています。

 
□南側外観
南側の開口部は木製建具(ペアガラス)に格子網戸をつけています。

 
□玄関
敷台は既存床の間で使用していたケヤキ板を再利用。

 
□和室
既存の軸組・天井・建具を利用しています。

 
□ダイニングキッチン
息子さんご家族の生活に合わせ、リビングダイニングキッチンを一体とした広々した空間に変更しています。

 
□リビング
リビングの床は栗。茶色の部分は栗に漆塗りです。

□2階
既存の小屋組みを生かした空間。写真はキッチン上部吹き抜けの様子です

 
100年以上の歴史がある民家。
蟻害や腐朽も多く確認されましたが、劣化している箇所は治し、趣ある雰囲気を残しながら、今の生活に合わせた全面リフォームとなりました。
「新しい家に建て替えるのではなく、古い建物を生かして住み続ける」
改めて素敵な選択肢だと感じる機会となりました。
1年以上という長い工事期間の中、多くの方のご協力があり無事に完成する事ができました。
詳細調査にご参加いただいた皆様、改修工事にご協力いただきました皆様、本当にありがとうございました。
佐治あゆみ