№0064〜奈良県「今井連窓のいえ」改修事例報告

設計者:MSD/三澤文子
報 告:WASH建築設計室/日野弘一
所在地:奈良県橿原市今井町
地 域:第一種中高層住居専用地域
主用途:一戸建ての住宅
築年数:不明(築100年以上)
規 模:木造2階建て
家族構成:二世帯住宅
敷地面積:481.66㎡ (126.65坪)
建築面積:196.26㎡ (59.37坪)
延床面積:285.32㎡ (86.31坪)
詳細調査:2014年6月
着  工:2015年10月
竣  工:2016年10月
(工事期間12ヶ月)
長期優良住宅化リフォーム推進事業採択
橿原市伝統的建造物群保存地区補助事業採択
今回の改修報告は、2014年に詳細調査を行なった今井町の長屋です。
https://sapj.or.jp/2014/07/?cat=9(←過去の調査報告はこちら)

改修前の建物の外観                解体直後の建物の外観
今回の改修計画は、物置として使われている二戸の長屋を二世帯住宅として住まえるように。その上、新築並みの性能になる改修工事したいというご希望から始まりました。
まず設計条件として大きかったのが、”伝統的建造物群保存地区”である奈良県今井町に建っている建物であることでした。建物の約半分が保存の対象になっており、構造躯体は原則そのまま使用する必要がありました。道路側の外観は行政から仕上げや構成が厳しく指定されました。
また、環濠集落の名残から道路のレベルから建物内部の地盤のレベルが1.6M程度下がっており(その上南側の棟は埋め戻されてしまっている)、構造的に工夫を要しました。
そして、今までに何度か改修工事が行われている履歴が見て取れましたが、取ってつけたような増築が行われているため屋根の構成が煩雑になり、それに起因して室内に雨漏りなどの劣化事象を引き起こしてしまっていることが調査の結果わかりました。構造的・温熱的性能の向上はもちろん、劣化対策や維持保全計画も見直す必要がありました。
【改修前図面】
  
改修前1階平面図               改修前2階平面図

改修前断面図
 
【改修後平面プラン】
改修後1階平面図
改修後2階平面図
改修後の建物は北側半分と南側半分で二世帯に分けられています。北側半分を北棟と呼び、子世帯の住まいとなっています。南半分は南棟で、親世帯の住まいとなります。また建物は道路側の東側半分と反対側の西側半分でも大きく構造が異なります。道路側の東側は既存建物を改修した棟、西側は増築された建物が煩雑に混み合っていたので一度全て解体し、新たに建物を増築しています。新築と同様の使用でこちらは建築されています。
北棟は道路から入ってすぐに土間サロンがあり、パブリックな空間になっています。住まい手さんの会社のスタッフを集めて研修などを行うことができる空間です。そこから奥に1.2M床レベルを下げたところにダイニング、水廻り空間などのプライベートな空間があります。元々地盤が低くなっていたことを生かし、中二階空間を確保したスキップフロアになっています。ご夫妻の寝室、子供部屋は二階にまとめられています。
南棟は道路側の一階に土間があり、こちらは地域の友人と集まったり、将来的にお店として活用できることを想定しています。こちらも道路から奥まったところにダイニング・水廻りなどのプライベートスペースをまとめています。また、こちらは親世代の住居になるので一階だけで生活が完結するよう設計しています。
 
【耐震改修】
既存建物の耐震要素は土壁であり、瓦を屋根に乗せた建物は耐震性能が極めて低い構造でした。
また一階に柱や壁が少なく、無理をしたプランになっていました。

改修後壁配置図
新しいプランに合わせて耐力壁を新設し、上部構造評点を1.0以上を確保するように耐震改修を行いました。
構造用合板を採用し、必要な数値に合わせて仕様を調整しています。面材による耐力壁を採用しています。
耐震改修の結果、上部構造評点は0.12から1.58まで強化することができました。


今回、増築部と合わせて改修部分もベタ基礎を新設しています。
既存建物は柱は直接地面にささった状態になっていましたが、その柱の足元を切断し、新規土台を差し込んだ状態で鋼製束・鋼製コラムを使って上部構造躯体を支えます。
また、耐力壁の高さを北棟と南棟で揃えるために北棟の基礎は高基礎とする工夫をしています。

耐力壁・水平後面を確保するために構造用合板を張りますが、既存の躯体がかなり傾いているため受け材を使って水平を確保していきます。
受け材を留めつける釘やビスの種類・間隔は構造設計をお願いしたTE-DOKの担当の方に仕様毎に検討をしていただきました。
また、改修部の躯体補強が一通りできた段階で構造躯体の”接合部検査”ということで現場まで足を運んでいただいて施工の確認を行なっています。
 
【温熱改修】
既存建物は無断熱の建物でしたので、断熱改修も合わせて行っています。床面は基礎断熱を採用し、カネライトフォーム50mmを使っています。
壁は既存の柱とその受け材の間にパーフェクトバリアを適宜充填し、約150mmが充填できました。天井はパーフェクトバリア100mmを二重で敷き込んでいます。
外部建具は性能のいい樹脂サッシのLow-eペアガラスを新たに取り付けています。一部、景観の指定で木製建具を使用していますが、Low-eペアガラスを採用しています

現行の基準を大きく上回る断熱性能にすることができました。
 
【建物の景観を残す】

写真は大正時代に撮影されたもので、今井町のまちなみ整備事務所に残されていました。
今回の改修工事では、このころの景観に戻すことに対して補助金が出ました。

全面道路側は、調査報告の写真からもわかりますが二階が増築され本来の景観からは大きく異なる状況でした。
今回、今井の町並みに合わせて竹小舞を編んで土壁を塗り、真壁の外観を再現するよう指定がありました。
また瓦についても町並みを見ながら、かなり細かく打ち合わせをしています。
この景観にかかる工事は、役所の方ともかなりの回数のやり取りを行いました。その中で、この町並みにかける熱い思いが伝わって来ました。
また、その工事を推進するために補助金の確保に取り組む姿勢などを目の当たりにしていると、こういう人がいるからこそ今井の町並みが改善されていくのだなと、その重要性を肌で感じました。
【竣工写真】
 

外観は他の長屋のデザインに合わせ、町並みの調和が図られています。
南側の長屋だけ、すでに取り壊されて歯抜けになってしまっているため、南の外壁には窓を設置することができました。

北棟の土間サロンからダイニングを見た写真と、ダイニングの写真です。
ダイニングが一段下がっているため、土間サロンからダイニングの奥まで視線が通ります。
また、ダイニングは天井が高い気持ちのいい空間にすることができました。

南棟の道路側の土間の写真と、ダイニングの写真です。
土間はお店などができるよう、収納を多めに用意しています。
ダイニングはデイベッドを設け、日中ダイニングでくつろぐことができます。
 

規模が大きく、時間も長くかかりすごく体力がいる現場でしたが工事を完了することができました。
ここに至るまでに、調査からたくさんの方々にご協力いただきまして、感謝をしております。
日野弘一