№0063〜山口県「豊浦の家」

報告者:TJR建築工房/田尻裕樹
 
所在地 :山口県下関市豊浦町
地 域 :市街化調整区域
主用途 :専用住宅(調査時:築54年 昭和37年建築)
家族構成:ご夫妻(30代前半)
規  模:木造2階建て
 
敷地面積:1006.20㎡ (304.38坪)
建築面積:144.29㎡ (43.64坪)
延床面積:164.45㎡ (49.75坪)
 
着  工:2015年12月
竣  工:2016年05月
(工事期間5ヶ月)
 
 
今回のプロジェクトの依頼者は30代前半の新婚夫婦でした。奥様の祖母が数年前に逝去し、暮らしていた築53年の古民家が空き家となっていました。その住宅を譲り受け、改修を行って新たな生活の住まいにしたいという希望から、プロジェクトはスタートしました。その建物は近隣の親戚の方々からも愛着を持たれており、工事中も多くの親戚の方々が様子を見にいらして、この家の思いでなどを語っておられました。古い住宅を住み継ぐということは、住まう方はもちろん、周りの方々の思いに対しても貢献していると実感した次第です。敷地は本州西端に位置しており、2階からは西側に日本海が見えるようなロケーションです。
 

改修前1階平面図


 

改修前2階平面図


既存外観


 

既存内観


【平面プラン】
2階建・延床面積は約50坪の木造住宅です。既存は1階に和室4室の田の字プランに加え、北側に台所・浴室などが配置されていました。2階は北側に和室が3室設けられたかたちです。

改修後1階平面図


 

改修後2階平面図


改修後の1階は田の字型和室4室を一つの空間とし、広々としたLDKとしています。西側のロケーションが良いので、深い庇を設け西日対策をした上で、ダイニングからの広い開口部を設けました。西側デッキには脱衣室からの動線も確保し、洗濯干しもしやすいようにしています。東側は広いリビングを中心に、玄関を兼ねた土間と小上がりの和室がつながるプランです。2階が乗っていない部分は天井裏空間を最大限利用して、広く吹抜けとした開放的な空間としています。
2階は階段の位置を変えた上で、将来的に家族が増えることも想定し、個室を2室確保しています。
 
 
【耐震改修】
 
既存建物の耐震要素は土壁であり、土葺き瓦を屋根に乗せた建物は耐震性能が極めて低い構造でした。
 

耐震改修前


 

耐震改修後


新しいプランに合わせて適宜耐力壁(構造用合板・筋交い)を設置し、構造評点1.0以上を確保するように耐震改修を行いました。基礎が無い部分には新たに鉄筋コンクリート基礎を増設し、新設した耐力壁の応力が地盤に伝達できるようにした上で、引き抜き耐力に合わせて柱頭・柱脚金物を設置しています。また、建物全体の耐震構造を適切に成立させるため、1階天井部の水平構面を構造用合板で補強するなど、水平耐力の確保も行っています。
 



 
 
【温熱改修】
既存建物は無断熱の建物でしたので、断熱改修も合わせて行っています。床には根太間にスタイロフォーム30mm、壁は土壁を残した上で壁内空間に合わせて、スタイロフォーム、グラスウールを適宜充填し、屋根・天井は全面グラウスール100mmを充填しています。外部建具も既存木製建具をアルミサッシペアガラスに改修しています。断熱性UA値を既存3.18→改修後0.89まで向上させています。
 

断熱改修前


 

断熱改修後


 
      
 
 
 
【建物の歴史を生かす】
     
 
リビング上部は天井裏を利用して吹抜としましたが、既存の小屋組を構成していた構造材はほとんど現しとしました。また、ダイニング・キッチンの天井は既存天井板のままとしています。新しく変化した部分の中で、古い材料を残して現すことで、新旧融合した素敵な空間になったと思います。吹抜けのあるリビングは空調効率が悪いことも想定されましたので、暖房効率を考慮し、ダイニングキッチンは10枚の建具で仕切れるようにしました。この10枚の建具は既存の障子を利用することで、コスト節約と共に以前の趣を残すこともできました。床の間や土間の照明などにも既存の欄間格子を利用していますが、大変好評でした。以前の建物の部材を使用することで、住まい手様、この建物を知る皆様の意識に建物の歴史を刻むことができたように思います。完成後も何度も訪問いたしましたが、大変美しく住まわれていて、作り手としては常に感謝させていただいております。