住宅医コラム 意見交換2018-80

住宅医リレーコラム 2018年5月号
リレーコラムでは毎月住宅医協会の理事等による月替りコラムです。
5月号は特定非営利活動法人木の家だいすきの会 代表理事の鈴木進氏のコラムです。

 

人生100年時代の「地域型住宅」トータルサポートシステム(試案)の提案

1.住宅医の職能の確立を目指して

ここでいう 「地域型住宅」とは、国内の森の木を使用し、地域に受け継がれた職人の技を活かした木造軸組工法による住宅といった程度のゆるい定義です。住宅医協会、NPO木の家だいすきの会ほか、金融機関、宅建事業者、工務店、設計事務所等が参加する「地域型住宅リノベーション推進協議会」を立ち上げ、平成29年度住宅ストック維持向上促進事業(国土交通省助成)に応募し、3年計画の取組として、採択されましたので、この場をかりて初年度の取組の成果を報告したいと思います。

(1)人生100年時代が消費者意識を変える

人生100年時代のインパクトは住宅においても無縁ではありません。建物の耐久性に関する関心がトップを占めるという調査も報告されるようになり、消費者の意識も長持ちする住まいへの関心が高まっています。住まいを2度、3度と建て替えることは難しく、30代~40代あるいは定年を契機にして建てた住まいを大切に住み続ける必要性が今後、ますます高まります。
 
柱・梁・土台、基礎などの骨組みを基準にした木造戸建住宅の寿命は約100年までもたせることが可能と言われていますが、100年住み続けるには、適切に乾燥が保たれていて、シロアリや腐朽の被害がないことが大前提となります。住宅は経年劣化によって屋根や外壁などが傷み、これをほっておくと雨漏り、水漏れ、結露などの危険にさらされます。そうしたリスクを早期発見し、早期に手当する「住まいの健康管理」が、住まいのライフサイクルコストを抑えることにつながります。
また、物的な耐久性だけでなく、ライフスタイルの変化によるプランの変更、耐震性、温熱環境、防耐火性などの住宅性能向上要求への対応といった生活ニーズの変化に対する対応力が住宅の寿命に大きく影響します。さらに、転勤や家族の介護などの環境変化により移転しなければならないといった事情の変化もないとは言えません。

 

(2)人生100年時代の地域型住宅トータルサポートシステム構築のねらい

「地域型住宅トータルサポートシステム(試案)」は、以下の3つのニーズにトータルにこたえることで、人生100年時代に対応した住宅の維持管理システム構築をねらいとしています。

  • 適切な点検と予防的な補修により住宅の本来の耐久性を維持向上させる
  • 生活の変化に対応した性能向上改修を合理的な診断とコストにより実現する
  • 転勤や介護などの事情の変化により売却せざるをえない場合、建物の価値が適正に評価され売却できる。

また、住宅の建設にかかわった設計者や施工者、またそのグループが、住まい手向けのサポートを包括的に実施するだけでなく、売却の際に購入者の改修ニーズにも対応できる体制を構築することで、住宅価値の維持向上を継続的に見守る「住宅医」としての職能を確立することをねらいとしています。
 

2.地域型住宅トータルサポートシステム構築の試案

(1)3つの事業モデル

□住まいの健康管理サポート事業
住まいの健康管理サポート事業は住宅本来の耐久性を維持向上させるためのサービスで、住宅履歴情報サービス、住まいの健康管理コンサルティング、設備の延長保証、修繕積立金、定期的な点検・診断、予防的補修の各サービスから構成されます。
□リノベーション(性能向上改修)事業
リノベーション(性能向上改修)事業は、生活ニーズの変化に対応して、間取りの変更及び住宅性能の向上等を図る大規模改修で、改修前後の性能向上効果を適切に評価するための詳細な点検・診断、合理的な大規模改修技術、改修工事費の概算システム、改修前後の使用価値評価システム、瑕疵担保保険等のサービスから構成されます。
□リノベーション仲介事業
リノベーション仲介事業は、転勤や介護などの事情の変化により移転をせざるを得なくなった方向けに、地域型住宅の売却をサポートするサービスです。また、買主向けに購入時の改修やその後の維持管理サービスを提供し、設計者、工務店等が住宅価値の維持向上を継続的に見守る仕組みを構築します。
 

(2)11の基本サービス

3つの事業モデルは、以下の11の基本サービスを組み合わせ、トータライズして提供します。

  • 住宅履歴情報サービス
  • 住まいの健康管理相談
  • 設備の延長保証
  • 修繕積立金
  • 点検・診断
  • 補修・改修・工事費概算システム
  • 戸建住宅の価格査定
  • 瑕疵担保保険
  • 不動産仲介
  • リフォーム一体ローン
  • 住宅の認定

 
 

(3)構成員によるサポートとアウトソーシング

地域型住宅リノベーション推進協議会は、武蔵野地域(埼玉県及び東京都西部)をベースに事業を展開する企業が構成員になっています。先の11の基本サービスは、構成員が展開可能な事業内容(新商品開発を含む)をふまえ、構成員が提供するサービスとアウトソーシング(外部連携)によるサービスに分けれますが、この組み合わせは地域の事情によりもちろん変わります。
今回、特徴的な取り組みは西川材の産地に本店をかまえる飯能信用金庫が「リフォーム一体ローン」及び「リバースモーゲージ」の開発に取り組んでいる点です。
 
表1.1 武蔵野地域(埼玉県及び東京都西部)におけるサービスの提供主体とアウトソーシング(試案)

基本サービス サービス提供者
 
構成員によるサービスの提供
住宅履歴情報サービス NPO木の家だいすきの会
住まいの健康管理相談 設計者、工務店、木の家だいすきの会
点検・診断 住宅医協会(点検・診断方法)
設計者・工務店
補修・改修・工事費概算システム 住宅医協会
不動産仲介 ㈱町田エステート
リフォーム一体ローン
リバースモーゲージ
飯能信用金庫
 
アウトソーシング
戸建住宅の価格査定 公益財団法人不動産流通推進センター
設備の延長保証 民間企業
修繕積立金 民間企業または損保会社
瑕疵担保保険 瑕疵担保責任法人

 

3.今後の取組

平成30年度は、事業モデルを精査し、実際にサービス可能な体制を整え、国土交通省にシステム開発の完了報告を提出する予定です。事業モデルとしては、工務店向け事業モデルを基本に、設計者向け事業モデル、NPO木の家だいすきの会のようなグループ事業モデルを想定しています。システム開発完了報告が承認されれば、このトータルサポートシステムにのっとった住宅の改修等に上限100万円の補助が認められる予定で、平成31年度は実際の改修事業を募集したいと考えています。