住宅医コラム 意見交換2016-68

古く素敵な建物が、簡単に壊されることを阻止するためには、どうしたらいいのでしょうか? まずは、壊されずに残り、愛されて使われている建物を大いに褒めて、古い建物を壊さず大切に使うことが「褒められること。」と多くの人に認識してもらうことなのではないか。と考えました。
今月の、誉めコラム「改修建物を訪ねて」は、和歌山県田辺市の「榎本邸」です。

「改修建物を訪ねて~その7」
町家の改修と数寄屋建築の融合~いつか真似したい材料選択
三澤文子(MSD)
 
 
 
もうずいぶん前に和歌山県の山長商店の榎本社長のお宅を訪問する機会を得ました。山長商店といえば、紀州材の代名詞ともいえる林業・木材会社。江戸中期に創業ということです。
代々住み継いだお宅を、道路側のみ改修というかたちで残し改修。敷地は奥行きが深く、そこには庭を整備しながら、数寄屋風の素晴らしいお住まいが増築されています。
設計は、建築家、故・渡辺明氏。完璧な設計を学ばせて頂きました。さらに高度な大工技術、圧倒されるほどの材料の質の高さ、全てに感動を覚えます。
 
今回、改修部分を中心に、ご覧頂きたいと思います。
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道路側正面。商家にある出格子は糸屋格子。ただ、縦格子が2本通しで、1本が切子というあまり見ないパターン。そのためかエレガントな雰囲気を感じるのです。そもそも、内部に光を入れるための糸屋格子ですから、糸屋格子にしたのは、それも目的の一つだったのかもしれません。
 
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それにしても、2階の縦格子の細さが凄い。何の材料なのでしょうか。もしや鉄筋では?と疑うほどですが、まさか山長商店が鉄を使うとは思われません。
 
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勝手口らしき格子戸。その両脇には栗のナグリ仕上げの板張りが見えます。格子戸の上部、板金で水切りをつくりそうなところに、紐丸瓦が水切りとして使われています。こんな選択に上質感と重厚感が生まれるのしょうか。
モダンデザインでスッキリさせ過ぎず、かと言って重すぎず。瓦のような部品を使うと重たくなりそうなところが、それを感じさせないのがさすがです。
 
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そして、塀も栗のナグリ仕上げ。笠木はここでも紐丸瓦です。
いつか、栗のナグリ仕上げ板張りの塀をつくってみたいと思います。
 
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糸屋格子のお蔭か、内側の障子が明るいのです。また、障子の仕組みも巧み。これも、いつかどこかで真似したいと思います。
増築の数寄屋テイストの空間は、今回ご紹介いたしませんが、チャンスがあれば、是非とも再度見学させて頂き、勉強させていただきたいところです。
チャンスとは、紀州材をしっかり使うことから生まれるはずですね。