投稿日:2019年07月08日

住宅医リレーコラム2019年7月


既存外壁を残したまま、新たに断熱付加をする場合の防露診断と治療について

令和元年の住宅医スクールが東京と大阪で開講しました。私が担当したのは初回3講義目の「木造建築病理学の実践」という講義です。講義では、断熱改修を行った物件の紹介と、その診断治療方法について紹介したわけですが、今回はじめて非定常の防露診断手法を紹介しました。

 

結露の計算とは?

非定常というと瞬間的に理解するのは難しいと思いますが、ようは、外壁(屋根)の外部と室内の温湿度を3年間変化させてシミュレーションしたものと解釈してください。

定常計算と呼ばれる結露の計算は、一定の温湿度(地域によって設定値は変わる)で計算をするのですが、雨水侵入や壁内換気(通気)など既存の状況を考慮できません。そのため、非定常計算でそれらを考慮して、かつ、季節による温湿度の変化を加味して、診断と治療を行うほうがよいと最近は感じています。

今回のコラムでは、非定常計算を行い防露診断した結果、わかったことをいくつか紹介したいと思います。


(図1、非定常計算の結果画面)

 

1、外壁から雨水が侵入した場合、どのくらいの量で壁の中の相対湿度が変化するのか?

改修版・自立循環型住宅への設計ガイドラインでは、「外部からの雨水侵入をまずは防ぐ必要がある」と書かれており、「もし、漏水がある場合は、気流止や充填断熱の可否について慎重に判断すべき」とあります。

自立循環型住宅のホームページはこちら。

改修版・自立循環型住宅への設計ガイドライン

一方で、壁内通気があると断熱材が有効に働かず、まずは通気止を行うべきという認識が実務者の中にあるため、診断・治療の段階で壁の構成を決定することに迷いが生じることがあります。現地を詳細に調査することが重要なのは当然であり、かつ、外壁も新築同様に治してあげるのが最善ですが、住まい手の予算にも影響してきます。そこで、診断時の勘を養うため、どのくらいの雨水侵入で壁の中の相対湿度があがるのか診断してみることにしました。


(写真1、昭和49年新築の外壁、解体中)

診断条件と外壁仕様

下図は、一般的な外壁構成です。
左から、
リシン吹付3mm
モルタル20mm
アスファルトフェルト0.7mm
バラ板12mm
グラスウール120mm
防湿層1mm
石膏ボード12.5mm
です。

外気温湿度は、京都市のものを使いました。室内は、温度は20度とし上下振り幅を7度。相対湿度70%一定としました。基本は、「計算の結果のよる温熱環境に関するガイドライン 一社)住宅性能評価・表示協会 平成27年2月27日修正」の規定に沿って設定しました

その他、バラ板部分に雨水全量の1%、5%、10%の3種の雨水侵入があると想定しました。

(図2、バラ板は針葉樹材としました。バラ板間の隙間はない状態です。)

 

診断結果。雨水侵入1%と5%と10%の比較。

下図の左から1%(左図)、5%(中央図)、10%(右図)になります。

黄緑に塗られた相対湿度の変化を見ると、雨水が10%侵入した場合(右図)、壁の中の相対湿度があがり、壁の中は相対湿度が100%に達する期間がでてきます。1%の左図は、夏場に壁内の防湿層面で相対湿度があがるものの、100%には達することはなく、バラ板付近も思ったより上昇していません。5%の中央図は、その中間の値といったところですが、壁の中の相対湿度は上昇し、かつ、防湿層(壁体内側)で相対湿度が100%に達しています。

これらの診断を見ると、目視で腐れが確認できた場合は、雨水浸入は10%以上に達し、木部に染みができている場合が、1~5%程度と仮定はできそうです。

(図3、1%(左図)、5%(中央図)、10%(右図)。青い線は、含水率です。)

 

2、地域による寒暖の差は、どのくらい壁の中に影響があるのか?

先程と同じ構成で、診断をしてみました。雨水の侵入は1%で統一しています。地域は、京都(6地域)に加え、福知山(5地域)、白浜(7地域)です。

定常計算でも地域による設定がありますが、これは冬の場合のみです。春と秋ではどういった変化になるのか知るためには、非定常計算が有効と考えています。

福知山(5地域)、京都(6地域)、白浜(7地域)の比較

下図は、左から福知山(5地域)、京都(6地域)、白浜(7地域)としました。

結果、既存外壁(バラ板より外部側)を残したまま、グラスウールを充填し、防湿フィルムを張れば、相対湿度が100%に達する地域はありませんでした。通気層がなくてもなんとかセーフといったところです。ただ、寒い地域になればなるほど、夏場の壁の中の相対湿度は高くなるので、通常より寒い地域の建物を診断・治療する場合は、注意が必要そうです。

(図4、左から福知山(5地域)、京都(6地域)、白浜(7地域)、含水率も福知山が少し高い)

 

3、もし、防湿フィルムが破れた場合、また、隙間があった場合は?

前述の2と同条件で、防湿フィルムを取り止めてみました。

すると、福知山(5地域)と京都(6地域)では、バラ板表面で相対湿度が100%達する判定となりました。白浜(7地域)は、この2つの地域よりも温暖なので、相対湿度が95%程度で止まっています。

前述の2と同様に、寒い地域に行くほど内部結露のリスクが高まるようです。

(図5、左から福知山(5地域)、京都(6地域)、白浜(7地域)、防湿層がないとバラ板面での含水率上昇が顕著。ただし、バラ板に隙間があると考えると、アスファルトフェルト面で相対湿度が上昇すると思われる。)

 

4、まとめ

既存建物を断熱改修する場合は、現場を知った上で、診断・治療を行う知識と経験が今後は必要になってきます。既存外壁を残す場合は、新築と違い通気層がないため、防露の診断は必ず行った方がよさそうです。

今回紹介した事例は、ある一定の条件の元、診断を行っているのでその条件が変われば結果も変わってきます。例えば、今回紹介した2の「地域による寒暖の差」では、寒い地域の方が、夏場に防湿層表面(壁内部側)の相対湿度があがるという結果が出ましたが、通気層を設けた場合は、暑い地域の方が夏場の防湿層表面(壁内部側)の相対湿度があがるという結果となりました。

改修の場合は、あらゆるケースが存在してくるため、その都度、シミュレーションをする必要がありますが、ある一定の診断の傾向は掴めます。改修版・自立循環型住宅への設計ガイドラインを参考にしつつ、現場を詳細に調査することがいますべきことでしょう。

文:豊田保之

投稿日:2019年06月05日

住宅医リレーコラム2019年6月


タグチホーム株式会社
代表取締役 田口元美
http://www.taguchihome.com/

【 空き家と住宅医 】

近年、空き家の増加が社会問題となっています。
住宅医として空き家問題に取り組んでみてはいかがでしょうか。

現在日本の問題になっている人口減少や、都市圏に集中する過疎化などの原因によって増えています。
全国の空き家率は増加の一途で、平成25年においては空き家数が820万戸、空き家率が13.5%となりました。
平成20年と比べると、空き家数は63万戸の上昇、空き家率は0.4%の上昇です。

このような空き家問題もあって、各自治体においても空き家バンクや空き家改修補助金など活用するための対策を始めています。

この活用の第一のメリットとして、新築住宅を建てるよりもコストを削減することができます。
空き家の改修では、建物の部分的な改修に止まらず、間取りや内装、設備を大幅に変更し、住まい全体の性能を向上させます。
築年数が経過して、老朽化が進んだ建物の耐久性や耐震性の強化、環境と家計に優しい省エネルギー住宅への変換も可能でしょう。

この改修こそ住宅医の目利きが大切です。中には解体せざるを得ない空き家もありますが、どこを直せば空き家に住めるようになるか
または店舗など他の用途に転用はできないか、住宅医の提案力も求められます。

また、第二のメリットとして、親御さんから譲り受けた大切な家を解体したり売却することなく活用できるという点が挙げられます。
マンションのリフォームなら、自分の理想とするインテリアに変えたり、家族に合わせた使い勝手の良い設計に変更することができるというメリットもあります。

リフォームをすることで、空き家が新築住宅のように生まれ変わり、住まいとして活用すれば、長年慣れ親しめる家に住み続けることもできるでしょう。

リフォームをした空き家を自分で済むのではなくて賃貸にして活用することも可能です。
既に自分が満足している住宅に住んでいるときに有効です。空き家を所持していると固定資産税や管理する必要があり結果的にマイナスですが、 賃貸にすることで収益になるのでプラスになるメリットがあります。

また、上でも記載しましたが、全面的にリフォームするとなれば費用もかさみますが、空き家を活用リフォームに関する補助金は地域ごとに 多数存在しています。

これかの各地域の制度も良く理解して提案していくことで、空き家を救っていくのも住宅医の使命だと考えています。

皆様の全国での活躍を期待しています。

投稿日:2019年05月09日

住宅医リレーコラム2019年5月


株式会社 キノマチ不動産
 藤村直樹

土砂災害から不動産を守るためには

最近は交通事故で痛ましい事故が続いて報道されています。同じくらいの子供を持つ身としては、身につまされる思いで胸が苦しくなります。

冬が過ぎ、これから梅雨を迎え夏本番に近づきます。今度は災害、大雨による土砂災害の時期になってきました。昨年7月の7月豪雨災害、平成29年の九州北部豪雨、広島の頻繁な土砂災害等、毎年のように災害が発生し多くの方が亡くなっています。

日本という国土である以上「土砂崩れ」は避けられないのですが、「災害」はある程度避けることができます。

私のブログの中で、「不動産購入時に気になること」というコラムで連載したところ、土砂災害から守るコラムが検索でよく見に来られていました。今回、その内容を一部改変してご紹介します。なお、主観的部分でのコラムであることをご了承下さい。


土砂災害は次の3つに分類されます。

1.急傾斜地の崩壊(がけ崩れ)

2.土石流

3.地すべり

この中で3の「地すべり」は事前に兆候が現れ比較的緩やかに進行することから、生命への危険度は小さいと言われております。

(※ただし、1985年の長野市の地附山災害のような急な地すべり現象で死者26名のような事例もあるので、必ずしも緩やかとは言えません)

急傾斜地の崩壊は、「がけ」が「崩れる」という現象ですから、一般の方でもイメージしやすいと思います。

都道府県が定める「急傾斜地崩壊危険地域」では斜面30度以上、高さ5m以上の人家や、公共施設に被害を及ぼすおそれのある急傾斜地およびその近接地を定めることになっていますが、急な斜面の下や直上はなんとなく危険な感覚は伝わるかなと思います。なんとなくがけの上付近はよくない、がけの下からがけの高さくらい離れないとまずい、という感覚で大体あっています。

一方土石流は、その昔「鉄砲水」という名前がつけられていましたが、一般的なイメージでは、渓流が急に増水して石や流木ごと氾濫する、というイメージになっているかもしれません。

ところが実際は川沿いではなくても土石流が起こりやすい地形は存在して、昨年の広島の事例のように、あっという間に強烈な運動量で家ごと流されます。

土石流の起こりやすい土地は素人の感覚ではわかりません。

よって、素人としては行政が危険箇所を指定した場所、情報を必ず目を通しておき、理解しておく必要があります。


土砂災害が起こる可能性のあるエリアとして、「土砂災害危険箇所」が定められています。

急傾斜地崩壊危険区域

・土石流危険区域

・地すべり危険区域

また土砂災害防止法に基づいて、

・土砂災害警戒区域

土砂災害特別警戒区域

が定められ、また今後定められようとしております。この土砂災害警戒区域に定められているかどうかは、宅建業法の重要事項説明の説明義務になりますので、これから土地建物を買う方は必ず知ることにはなっています。

又その他にも、砂防指定地、地すべり防止区域、急傾斜地崩壊危険区域という工事を行う予定の地域、山地災害危険区域という森林を定めた区域も存在しています。

個人的にはとてもわかりにくい(指定の目的が違うのはわかりますが)ので、全て土砂災害警戒区域、特別警戒区域にまとめて欲しいと思いますが、現在はわかりにくいので土砂災害の危険区域だけを注目する必要はありません。

危険な情報は全て一つの地図情報である市町村のハザードマップを確認すれば基本的に全て載っていますので、ハザードマップを手に入れましょう。国交省のサイトからも見ることができます。

国土交通省ハザードマップポータルサイト  https://disaportal.gsi.go.jp/

↑もちろん的中率は100%ではありませんし、区域に指定されていないところでも災害が発生していたりもしますが、新規に誰も住んでいないところに土地購入を考えている場合以外はこの情報を元に対策を考えるのがベースです。


私は以前の会社で土砂災害警戒区域、土砂災害特別警戒区域の区域を定める業務についていたことがあります。この区域の指定はマニュアルに従って機械的に定めます。(3次元の地図を使って)

特別警戒区域内は、レッドゾーンと言われますが、簡単に言うと「家が流されます。押しつぶされます。」

警戒区域内は、イエローゾーンと言われますが、簡単に言うと「家の中に土砂が入ってきます。」

と捉え方で言い過ぎではないでしょう。つまり不動産視点ではどちらにせよ建物は駄目になる可能性が高い、土地も形状が変化する可能性が高いのです。

人命視点では土砂災害警戒情報に基づき避難を行うことが命を守る行動につながります。


では不動産購入時の視点として、土砂災害警戒区域と特別警戒区域はどう判断するべきか。

特別警戒区域は法律で土砂を防ぐ対策を取らなければ開発できないと定めれられています。

警戒区域は特に定められていませんので判断は個人の判断になります。先程も述べましたが警戒区域に定められているかどうかは宅建業法の重要事項の説明事項です(ただし、諸々の事情でまだ定められていない地域はあるので行政に確認下さい)

基本的に土砂災害危険箇所は全て避けるべきです。

ただ、狭い日本の国土上、その場所を選ばざるを得ない場所もあるかと思います。というか結構な地域がそうでしょう。避けるだけでは非現実的な提案です。

それでもまず次は避けましょう。

・特別警戒区域に近い警戒区域内

土石流の氾濫地域に近い警戒区域内で家の全てが収まっている

ようは安全率を取りましょう、ということになります。

そして建築士と相談して、床上を上げるとか、上流側に対策工を打つとか、窓の位置を考慮するとか、2階を就寝場所とするようにするとか、ちょっとした対策が違いをわけることになります。不動産の被害も人命の被害もリスクを少なくできます。ここの視点を持っての家づくりはほとんどされないので、是非建築士に防災観点の家づくりを求めましょう。


日本にいる以上、地震、台風、土砂災害は避けられないのですが、過去まだ同時発生(近い発生)は無いと思います。

大規模地震のあと、大雨→土砂災害。

大雨が降り続いているその時に大規模地震。

このコンボは普通にありえます。その時どちらか片方だけなら崩れない、水が来ない場所でも、コンボにより尋常な被害が出ることは十分想定されます。

そこまでのリスクを想定しておくことが、不動産と財産、人命の保護につながると思います。