投稿日:2019年01月07日

代表理事より新年の挨拶


代表理事  山辺豊彦(山辺構造設計事務所)

明けましておめでとうございます。
新しい年を迎え、全国の住宅医協会会員ならびに協力関係者の皆様に、謹んでご挨拶を申し上げます。

昨年は豪雨災害、台風、豪雪被害、噴火災害、地震被害等、自然災害の多い一年でした。東京都でも首都直下地震への備えとして、「いつか来るかもしれない」のではなく「必ずくる」と考え、喫緊の課題として建物の耐震化キャンペーンを開催しました。その一環として、昨年12月14日、都庁内で「木造住宅の耐震改修」をテーマに講演を行いました。この講演後に「耐震化に係る金融知識(補助制度)の説明」があり、その後共催区市の助成制度の詳細説明がブース形式で行われました。

当事務所でも昭和初期、日野市に建設された旧蚕糸試験場日野桑園の耐震改修に協力しました。この建物は、蚕室を良好な環境に保つため1階を1m位の高床とし、床下には飼育室の中央部に煉瓦積みで火炉を設置し、周囲に換気孔を設けています。当時の建物で1階が鉄筋コンクリート造、2階が木造とした立面混構造の事例は珍しい建物です。2階の木造は、洋小屋のキングポストトラスで、比較的細い部材で広い空間を覆う架構形式となっています。2階床スラブには開口部を設け、暖気の流れを2階に導き、さらに越屋根から外に流します。このシステムは、大正期に改良普及した方法で、当時は「古くて新しい技術」でした。この建物を耐震改修し活用しながら後世に残すことは、日野市の産業史を物語る面からも、歴史文化を伝え続ける面からも貴重な役割を果たすことと期待しています。

住宅医協会は、今年も住宅医スクールを各地で開催します。建築に関わる会員ならびにスクール生の皆さんには、講義だけではなく実測調査や検定会などにも参加され、技術の研鑽を積んで信頼される住宅医として活躍してほしいと願っています。

投稿日:2018年12月12日

住宅医コラム 意見交換2018-87


住宅医リレーコラム 2018年12月号
リレーコラムでは毎月住宅医協会の理事等による月替りコラムです。
12月号は森本周子氏のコラムです。

床下・小屋裏ワンダーランド

もりちかぐみ 森本周子

建物の調査で「床下に入るのはちょっと・・・」と尻込みする方にお会いすることもあります。床下や小屋裏は、静かで落ち着きますし、毎回発見がありますので、私は楽しくもぐったり登ったりしています。ここでは「調査に参加してみたいけれど。」という方に向けて、最近の木造の床下、小屋裏調査での考えた事を紹介します。


インスペクションの目的によって調査内容や時間のかけ方は変わりますが、住宅医が得意とする床下、小屋裏の詳細調査では構造や劣化等の状況把握を主に効率的に行うことになります。


そこでの楽しみはやはり木造ならではの軸組みです。時代や時期、地域によっても違いますので、発見があります。自分の知らない地域では、小屋組みだけでなく床組みでも「このあたりの大工さんはこうやっておさめるのが普通なのかなあ。」と思うこともありました。「この時期の住宅ならばこういう工法や材料がよく使われている」という知識が頭に入っていれば、現場でも早い判断につながります。


そして、あまり会いたくはないが会っておけば次の調査につながるのが、劣化をもたらすシロアリなどの痕跡です。ヤマトシロアリの蟻害、蟻道はよく見るので、私は「この辺あやしい。」という鼻もだいぶきくようにはなったと思います。今年はアメリカカンザイシロアリに対面し、会いたくはなかったですが次に会ったら気づきます。(防除は大変です)その他劣化以外で、ハクビシンの痕跡はよく見ますが、スクール修了生のAさんにコウモリの糞を教えていただきました。もしかしたら今までどこかで出会っていたのかもしれませんが、「知らないと見えない」ので、現場でホンモノを知る人と同行するのは大切だと思います。
また、住宅の調査では時間に余裕がないことが多いので、調査の数をこなしている人は、いかに効率よく行うか、工夫し、調査の進め方や道具等も進化しています。住宅医スクールの清水利至講師の講義を聞きながら、その要領がよく質の高い調査に感服し、一度、押しかけて同行させてもらいたいと思っています。文化財調査にも長けているスクール修了生のSさんとお寺の本堂の小屋裏に同行した時には、忍者のように身軽に梁の上を渡る姿と技術的な知識で勉強させていただきました。Sさんの明るいヘッドライトと手袋の工夫を真似して、性能の良いヘッドライトを使うようになりました。余談ですが、とても性能のよいヘッドライトを買って調査に入ったが、電池が持たなくて失敗という方もいましたので、調査の内容に合わせた選択が必要です。


最近「住宅履歴」をデータとして残す事業が進められています。写真のようにある文化財では改修年月を「束に刻印」、「天井板への書き込み」、「棟板と別に3回の改修を板に記録して小屋裏に残す」などしていました。一目瞭然なので、住宅のメンテナンスの時にもこうしたアナログな方法も後々役立つのではないかと思いました。


発見があって楽しいといっている時点で、私もまだまだ知らないことがあって未熟ということになりますが、こうした小さな発見を積み重ねています。「調査してみたい。」と思われている方、全国各地にはサポートしてくれる住宅医やスクール修了生がいますので、一緒に調査いたしましょう。いざ床下・小屋裏ワンダーランドへ。

投稿日:2018年11月09日

住宅医コラム 意見交換2018-86


住宅医リレーコラム 2018年11月号
リレーコラムでは毎月住宅医協会の理事等による月替りコラムです。
11月号は村上洋子氏のコラムです。

 

マイカ先生との再会

村上登男一級建築士事務所 村上洋子

 

スティーヴン・マイカ先生に、6月下旬のオックスフォードでお会いしました。住宅医スクール初日第一講義のスライドに、英国レディング大学の building pathology(建築病理学)の教授として登場された先生と言えばお分かりになると思います。2014年9月にレディング大学を退職され、現在はオックスフォード近くに住まいつつ、複数の改修と新築のプロジェクトを掛け持ちし「定年前より忙しい」と話す先生は、相変わらず気さくで活気に溢れていました。

6年ぶりの再会で、私は今の住宅医協会の様子と、今年4月に宅建業法が改正され建築士による状況調査が必要になったことなどを報告し、先生からは現在手がけているプロジェクトに絡め、英国の不動産市場についてお話を聞くことができました。ご存知の通り、英国では既存住宅流通が新築より圧倒的に多く、また不動産の価値は築年数が経っても下がることはありません。住宅の購入は安定した投資の一つで、収入の少ない若い時に小さな家を買い、家族の増加など生活環境が変わり、家が手狭になったタイミングでより大きな物件に買い替え、子育てが終わって居住人数が減ると、大きな家を売り再び小さな家を購入したり高齢者向けの施設に入居したりします。こうすることで得た利益は老後の資金となるのです。

例としてイングランドの地方都市にある住宅を紹介します。中央に界壁があり左半分を知人のご両親が所有しています。約25年前、結婚と同時に購入し、子供が増えた時、裏庭に一部屋増築して今もお住まいになっています。右半分の住宅は何度か売りに出され、売却価格は2001年から2013年の12年間で2.4倍です。25年前からだと何倍になっているのでしょう?
ところが不動産価格の高騰で、若い人でも手に届くはずの「最初」の住宅まで高額になってしまいました。ロンドンなど大都市はいうまでもなく、マイカ先生が暮らすオックスフォード郊外の町も同様で、簡単に購入できなくなっているそうです。マイカ先生も最初の家を購入してから、DIYでコツコツ改良し価値を高め転売、現在の住宅を手に入れたそうですが、先生やご友人のお子さんは高額なローンの返済に時間と精神的な余裕がなく、「代わりに退職した父親達が子供の家をDIYしている」と笑って話されていました。

 

 

先生とおしゃべりしながらオックスフォードの古い街並みを歩いていると、話題は自然に目に入る建物の劣化と改修方法になります。素材は豊富にあり、あっという間に時間が過ぎてしまいました。私の後に、現在進行中である「新築」のプロジェクトの構造エンジニアと打ち合わせがあると颯爽と去って行かれる先生を見送りながら、次にお会いする時は建築病理学の専門家がこれまでの経験を新築にどう生かしたか、竣工後の建物でお話を伺いたいと思いました。