投稿日:2017年03月10日

住宅医コラム 意見交換2017-76


ご病気になる前にトイレを改修できたケースのご紹介。また、すでにご病気にかかり、不自由な生活をされているご主人のために、トイレをなんとかしたい。という動機から、改修の相談を受けたケースのご紹介・・・今年は、健康にも直結する「トイレ」に注目して、住宅設計のポイントを抑えていきたいと思います。今月の、トイレコラム」は、高齢者のトイレについてお話です。

 

 

 

「トイレコラム」

高齢者のトイレ ~ ビフォア―・アフター

三澤文子(MSD)

 

1964年、東京オリンピックの前の年、新しい家ができました。私の実家です。当時、まだ珍しい水洗トイレがつきました。それまでは、主屋から30mほど離れた汲み取り便所に行かなければならなかったのですから、家の中にあるトイレ、それも水洗ともなれば、天にも上がる気分だったのです。個室のある2階にはなんと洋式トイレ。ところが1階のお客様も使うメイントイレが階段の下の、俗に言う汽車便(段差のある和式便所)だったのです。当時は、家族のだれもが、そのバランスの悪さに気付くことも無く、狭いトイレを有り難く使っていましたが、さすがに高齢の祖母のために、25年ほど経ち、父が洋式トイレに替えた時は、膝が悪い祖母は涙したものでした。ただし相変わらず階段の下です。その後、住宅の設計をしている私が、とうとう改修することになりました。

 

改修前の階段下トイレ

 

柿渋紙を貼ったトイレの引き戸

 

既存の窓が見える、奥行きのあるトイレに。

 

床、壁は桧板張

 

トイレの前の1坪ほどの無駄に広いホールも含めてトイレにしたことで、かなりゆったりしたトイレになりました。当時80歳前だった母は「寝れるほど広いね。」と大喜びでした。そんな母も新しいトイレを2年間、使うことなく亡くなってしまいました。母を介護した義姉から、「トイレが広くて助かった。」と言われたことも忘れられません。

 

そんな経験もあり、過酷なトイレを使って過ごされている高齢者に出会うと、いたたまれなくなります。とにかく、1日でも早く、トイレをつくり変えてあげたい。そんな、焦った気持ちにさえなるのです。

 

 

改修のご相談で出会ったこの家のトイレは、庭にある、いわば離れのトイレ。昔の汲み取りトイレの名残です。80歳を越したおばあ様は、毎晩ご自分の寝床からこのトイレまで、長い道のりを往復するのです。冬の寒さを想像すると、身が縮む思いです。

 

小便器の右手がトイレの扉。

 

築150年を超えたこの家は、性能向上の改修がされました。もちろんトイレは家の中、茶の間の前の、玄関室につくりました。おばあ様が寝室にしている座敷からは、茶の間を経てトイレに行くことになったのですが、今までのことを思えば、「手が届くほどの距離よ。」と言われ、とても喜ばれました。

 

ゆとりの広さのトイレ。

 

トイレットペーパーホルダーとリモコンを取り付ける腰壁は手摺にもなる造り。

 

改修して3年後くらいたった頃メンテナンスで訪問して、相変わらずお元気そうなおばあ様に再会することができました。でも、聞けば、1年前、ご病気なり半年ほど床に伏していたとのこと。「母が病気の時は、茶の間にベッドを設けて介護していましたが、暖かい家になったことや、トイレが近くになったことが、本当に有り難かった。」と言われ、胸をなでおろす気持ちになりました。

 

 

このように、ご病気になる前にトイレを改修できたケースばかりでなく、すでにご病気にかかり、不自由な生活をされているご主人のために、トイレをなんとかしたい。という動機から、改修の相談を受けたことがあります。不便なトイレとは、やはりあの汽車便です。

 

これが汽車便。出入口の幅は600mmほど。床には段差があります。

 

白い壁と板張りの壁で明るく清潔感がある。

 

畳1帖の広さだったトイレの巾を広げ、ゆとりの広さに。また、出入口は800㎜ほどの引き戸。そして手すりもしっかり設けました。

改修して、数年後に、ご主人はお亡くなりになったのですが、おそらく、機嫌よく使って頂けていたのではないかと思っています。

 

 

投稿日:2017年02月08日

住宅医コラム 意見交換2017-75


最近の家は2階にトイレを設けることは当たり前になって、小さな家でもトイレが2つあることは標準のように思いますが、既存の住宅では、寝室のある2階にトイレの無いことが良くあります。60歳代のご夫妻で寝室が2階の場合、「2階にトイレを設けましょうか。」とお尋ねしますが、「まだまだ大丈夫です。」とのお返事があることも・・・今年は、健康にも直結する「トイレ」に注目して、住宅設計のポイントを抑えていきたいと思います。今月の、「トイレコラム」は、トイレの位置についてお話です。

 

 

 

「トイレコラム02」

トイレと寝室の関係 ~ 1階メイントイレの充実を。

三澤文子(MSD

 

 

最近の家は2階にトイレを設けることは当たり前になって、小さな家でもトイレが2つあることは標準のように思いますが、既存の住宅では、寝室のある2階にトイレの無いことが良くあります。60歳代のご夫妻のすまいで、2階に寝室がある場合、「2階にトイレを設けましょうか。」とお尋ねしますが、「費用もかかりますし、まだまだ大丈夫です。」とのお返事があることも。逆に50歳代でも、今まで何かしらの病気をされた方は、寝室の中にトイレを望まれることもあります。

 

 

(クリックで拡大表示)

上の図は北東の寝室に併設するクローゼット周りにトイレを設けた事例です。「ホテルの客室のようなトイレを・・・」と言われてもスペース的に大きいトイレはつくりにくものの、いずれ高齢になってきて寝室にいる時間が長くなるようなことがあれば、介護のしやすいトイレが寝室の中に内にあることは、大変便利なことになるでしょう。

 

  

そこで、かなりコンパクトなトイレになりましたが、観音開きのドアのつくりにして、通常は片方のみを使い、いざとなったら観音開きに、というアイデアです。今のところは、掃除がしやすい。と喜んで頂いています。

 

 

 

さて、2階に寝室のある60歳代前半のご夫妻のお宅を改修させて頂きました。

2階にはトイレが無く、1階の玄関正面にトイレがあります。

 

改修前平面図(クリックで拡大表示)

 

玄関正面のトイレ。ドアの開口内法は565㎜、広さも畳1帖以下。

 

階段は急で、夜中にこの階段を下りて1階のトイレに行くのはなかなか辛いものがあると思い、2階にトイレの設置についてご希望をお聞きしましたが、「慣れているので、無くても大丈夫。」とのこと。「いずれ1階の客間を寝室にする時が来るだろうから。」とのお話でした。

確かに、この家に住み慣れているお二人で、夜中に頻繁にトイレに行くことが無ければ、2階にトイレがどうしても必要とは感じないのでしょう。このケースのように、いずれ1階に寝室として使えるお部屋があれば、あえて費用をかけて2階にトイレをつくる必要はないかもしれません。

しかしながら 1階の玄関正面のメイントイレは寒そうですし、トイレ自体が狭い。また、玄関を入って最初に目にするのがトイレの扉というのも、豊かさがありません。

 

改修後平面図(クリックで拡大表示)

 

開口幅も860㎜に。トイレの広さ(内法)1290㎜×1830㎜

 

そこで、玄関の位置をかえ、トイレも玄関ホールから廻りこんだ位置にして、将来寝室になるだろう、客間に近づけました。和室の客間は、南のリビングにもつながっていて、当分は茶の間のように使うことができます。

高齢になった場合、平屋で暮らすのがベストであることは間違いありません。2階建ての家に暮らす場合、10年以上先のことを想像して、1階のつくり方、つまり寝室に使える部屋とトイレとの関係も考える必要があります。

高齢に向かう方のお住まいでは、1階メイントイレの充実を目指したほうが良いかと思います。

 

 

投稿日:2017年01月06日

住宅医コラム 意見交換2017-74


古い家の改修をしていると、トイレの位置の時代的変遷を感じます。現代生活では考えられないほど不便なトイレの位置も、その時代の設備においては必然的なことでした。ただ、設備技術の進歩を見る現代の住宅であっても、住宅プランニングにおいてトイレの位置はとても大切だと思っています。

今年は、健康にも直結する「トイレ」に注目して、住宅設計のポイントを抑えていきたいと思います。今月の、「トイレコラム」は、トイレの位置についてのお話です。

 

 

「トイレコラム01」

よく考えたいトイレの位置 ~ 遠からず近からずのベストポジション

三澤文子(MSD

 

 

古い家の改修をしていると、トイレの位置の時代的変遷を感じます。現代生活では考えられないほど不便なトイレの位置も、その時代の設備においては必然的なことでした。ただ、設備技術の進歩を見る現代の住宅であっても、住宅プランニングにおいてトイレの位置はとても大切だと思っています。

トイレの位置について長い時間考え続けている理由の一つは、我が家のトイレの位置がとても悪くて、長年苦労しているからかもしれません。31年前に新築した当時、トイレはコンパクトな台所と背中合わせの位置にありました。

 

1985建設時の自邸(クリック;拡大表示)

 

台所で家事をこなす時間の多かったことから、家族、もしくはお客様のトイレ使用時に台所にいなければならないこともあり、大変苦労した記憶があります。当時、脱臭の機能も無い便器であったことなどから想像は難くないと思います。夫(三澤康彦)の設計だから。という言い訳はできません。このプランを容認して実現したのですから、すなわち私の認識の無さだったからでしょう。若く生活体験が乏しかったからだと思います。

我が家は新築後数年してから、トイレの位置を改善したいがために、リフォームをするのですが、その後のトイレの位置やそれにまつわるお話は次の機会に譲り、トイレの位置に関するお話を、最近完成した古い家の改修住宅を事例に進めたいと思います。

 

北秋津のいえ 改修前(クリック;拡大表示)

 

築340年以上のこの住宅は時代ごとに造り変えられていき、その変遷は定かではありません。図面左上にある北トイレは、建物本体から渡り廊下風に取り付いた1坪のトイレ。かつては汲み取り便所だったためか、開口部だらけの寒いトイレでした。

もうひとつは、右手中央部にある東トイレ。ここは後から設置されたようで、畳1帖の大きさに、洋便器と小便器があるというものでした。

 

北秋津のいえ 改修後(クリック;拡大表示)

 

改修後のそれぞれの部屋の位置は、改修前とほとんど変わらず、トイレの位置もほぼ変わりません。

メインで使用する図面右手中ほどの東トイレは、今回の改修で、広さを確保し、お客様も使用できるメイントイレのしつらえをしています。

 

リビングダイニングからつながっていて、薪ストーブの暖も得られる、比較的暖かい位置にあります。つなげることで、急激な温度差を無くそうとのことですが、この場合、音のことに注意が必要です。匂いは最近の便器の脱臭機能によって苦労が無くなりましたが、音だけは個人住宅で乙姫さんをつけるのもおかしなことです。ここではTV収納の後ろに廻りこむ形で、奥まった気兼ねの無い位置にトイレができました。この住宅は広さもあることから、手洗い室を設けてその奥に洋便器と小便器のある1坪のトイレ。という益々気兼ねの無いトイレです。

 

一方、図面左上の北トイレは、トイレ部分だけ耐震補強エリアから外し、さらに内外装の趣きを残したいという思いから、断熱強化も本体部分より劣るトイレになってしまいました。85歳のお父さんの専用のトイレになっているのに。です。

 

 

真冬は渡り廊下も寒く、トイレが寒い部屋で心配ですが、寒さの要因の一つでもある窓の多いこのトイレをお父さんは大好きで「明るいのがいい。」と言っています。

 

 

写真では便器の上に既存の窓があり、寒さ対策のために障子を入れていますが、ちょうど便器正面にも同じ大きさの窓があります。以前は、さらに床からの地窓もありました。汲み取り便所の名残です。この位置こそ匂いも音も気兼ねなく、ゆっくり使用できるベストポジションなのです。今回寝室に併設した理想的なトイレになりましたが、ただ温熱環境は今後の改善が必要です。

お父さんは「冬以外は最高のトイレだ。気にいっています。」と満面の笑顔でしたが。