投稿日:2017年01月26日

事例報告(改修事例)2017-65


 

千葉県「平久里中の古民家再生」改修事例報告

報告:松井郁夫建築設計事務所/松井郁夫氏

 

 

設計主旨

房総半島の山中に建つ、木造平屋建ての古民家の耐震エコ改修である。オーナーの要求は、自然が満喫できる現代的で快適な空間を実現するとともに、母上の保養を兼ねた住まいとしてのやすらぎのある室内環境も必要とされた。

 

改修前外観

 

建物は、この地域の典型的な形態である寄棟の屋根に式台玄関が付く珍しいつくりであった。実測調査の結果、棟木の墨書から明治40年築(110年前)の古民家であることが分かった。土台は敷設されているが、足固め併用の石場置きである。床に多少の不陸は見られたが、小屋組の構造は健全であった。

 

実測野帳はその場で清書する

 

床下に潜って伏図を採る

 

改修前の床下・足固め土台併用

 

 

そこで、屋根瓦を乗せたままのスケルトン改修とした。床をはがしてみると、土台は意外に健全であったためそのまま使用することとしたが、足固めは、松材8寸の挟み材で太いボルトで締めてあって、裏山の湿気で鉄が結露した痕跡があり、松材のため虫食いが激しかった。そのため120角の桧の足固めを輪内でクサビ打ち、込栓止めとして取り換えた。足元とはいえ、できるだけ金物を使わない木組仕様である。

 

床下で結露していたボルト穴

 

問題は、石場置きのまま耐震改修できるのかということであった。通常、古民家は100年以上もの長寿命にもかかわらず、通常の許容応力計算では正しく評価することができないため、耐震改修時には現代工法と同じようにコンクリート基礎にホールダウン金物を設置されてきた流れがある。

わたしは、これまでに経験してきた古民家調査や2007年から実施されている伝統的木造住宅の実大実験に参加してきた経緯から、日本の木造住宅は、木の特性である「めり込み」と「摩擦」によって力を「減衰」することで、粘り強く地震や風に耐えるのであり、土壁や貫、足固めは、改修時にやめてはならない大事な部材であると考えている。

今回、滋賀の川端氏の協力を得て、「限界耐力設計法」によって構造解析を行い、地盤が良いこともあって、土壁を残し足固め貫をそのままに、石場置きのままに耐震改修が可能となった。

 

改修した足固め

 

復元力特性と応答値の関係

 

 

繰り返しになるが、古民家改修は在来工法の建物と違い、木の「めり込み特性」を理解した上で、足固めを重要視し、「貫をやめてはいけない」。つまり復元力特性のある木組みの家には、金物は使うべきではない。金物は復元力がなく、木という母材を壊すからだ。

今回、住宅医ネットワーク事務局滝口氏の協力を得て、実測調査を進め、大切な架構を残しながら、現代的な室内をデザインすることができた。性能面では岐阜森林アカデミーの辻氏の計算ソフトを使ったエコ改修の数値を明らかにし、燃費計算まで算出できたことも、大きな成果であった。

ちなみに、既存のままでは熱損失係数Q値10.54W/㎡Kであった建物が断熱改修によってQ値2.39W/㎡Kまで達成できることが計算上ではあるが確認できた。また、計算には乗らないが湿気対策として、吸放湿性能に優れたゾノトライト系ケイ酸カルシュウム板を全室の天井裏に使用し、断熱、耐火、脱臭の効果も得られた。

古民家改修が、耐震とエコの両面から、さらに長い時間を生きる「社会的資産」となり、これからの日本の木造住宅を考えるうえで、未来の指針となる事を願っている。

「むかしといまをみらいにつなぐ」知恵と工夫は古民家にあると思う。

松井郁夫

 

 

改修後の外観

 

納戸を改修した浴室

 

抜けない柱を残して改修

 

 

 

 

投稿日:2017年01月09日

事例報告(改修事例)2016-64


奈良県「今井連窓のいえ」改修事例報告

設計者:MSD/三澤文子
報 告:WASH建築設計室/日野弘一

所在地:奈良県橿原市今井町
地 域:第一種中高層住居専用地域

主用途:一戸建ての住宅
築年数:不明(築100年以上)
規 模:木造2階建て
家族構成:二世帯住宅

敷地面積:481.66㎡ (126.65坪)
建築面積:196.26㎡ (59.37坪)
延床面積:285.32㎡ (86.31坪)

詳細調査:2014年6月
着  工:2015年10月
竣  工:2016年10月
(工事期間12ヶ月)

長期優良住宅化リフォーム推進事業採択
橿原市伝統的建造物群保存地区補助事業採択

今回の改修報告は、2014年に詳細調査を行なった今井町の長屋です。
http://sapj.or.jp/2014/07/?cat=9(←過去の調査報告はこちら)


改修前の建物の外観                解体直後の建物の外観

今回の改修計画は、物置として使われている二戸の長屋を二世帯住宅として住まえるように。その上、新築並みの性能になる改修工事したいというご希望から始まりました。
まず設計条件として大きかったのが、”伝統的建造物群保存地区”である奈良県今井町に建っている建物であることでした。建物の約半分が保存の対象になっており、構造躯体は原則そのまま使用する必要がありました。道路側の外観は行政から仕上げや構成が厳しく指定されました。
また、環濠集落の名残から道路のレベルから建物内部の地盤のレベルが1.6M程度下がっており(その上南側の棟は埋め戻されてしまっている)、構造的に工夫を要しました。
そして、今までに何度か改修工事が行われている履歴が見て取れましたが、取ってつけたような増築が行われているため屋根の構成が煩雑になり、それに起因して室内に雨漏りなどの劣化事象を引き起こしてしまっていることが調査の結果わかりました。構造的・温熱的性能の向上はもちろん、劣化対策や維持保全計画も見直す必要がありました。

【改修前図面】

  

改修前1階平面図               改修前2階平面図

改修前断面図

 

【改修後平面プラン】

改修後1階平面図

改修後2階平面図

改修後の建物は北側半分と南側半分で二世帯に分けられています。北側半分を北棟と呼び、子世帯の住まいとなっています。南半分は南棟で、親世帯の住まいとなります。また建物は道路側の東側半分と反対側の西側半分でも大きく構造が異なります。道路側の東側は既存建物を改修した棟、西側は増築された建物が煩雑に混み合っていたので一度全て解体し、新たに建物を増築しています。新築と同様の使用でこちらは建築されています。

北棟は道路から入ってすぐに土間サロンがあり、パブリックな空間になっています。住まい手さんの会社のスタッフを集めて研修などを行うことができる空間です。そこから奥に1.2M床レベルを下げたところにダイニング、水廻り空間などのプライベートな空間があります。元々地盤が低くなっていたことを生かし、中二階空間を確保したスキップフロアになっています。ご夫妻の寝室、子供部屋は二階にまとめられています。

南棟は道路側の一階に土間があり、こちらは地域の友人と集まったり、将来的にお店として活用できることを想定しています。こちらも道路から奥まったところにダイニング・水廻りなどのプライベートスペースをまとめています。また、こちらは親世代の住居になるので一階だけで生活が完結するよう設計しています。

 

【耐震改修】

既存建物の耐震要素は土壁であり、瓦を屋根に乗せた建物は耐震性能が極めて低い構造でした。
また一階に柱や壁が少なく、無理をしたプランになっていました。

改修後壁配置図

新しいプランに合わせて耐力壁を新設し、上部構造評点を1.0以上を確保するように耐震改修を行いました。
構造用合板を採用し、必要な数値に合わせて仕様を調整しています。面材による耐力壁を採用しています。
耐震改修の結果、上部構造評点は0.12から1.58まで強化することができました。

今回、増築部と合わせて改修部分もベタ基礎を新設しています。
既存建物は柱は直接地面にささった状態になっていましたが、その柱の足元を切断し、新規土台を差し込んだ状態で鋼製束・鋼製コラムを使って上部構造躯体を支えます。
また、耐力壁の高さを北棟と南棟で揃えるために北棟の基礎は高基礎とする工夫をしています。

耐力壁・水平後面を確保するために構造用合板を張りますが、既存の躯体がかなり傾いているため受け材を使って水平を確保していきます。
受け材を留めつける釘やビスの種類・間隔は構造設計をお願いしたTE-DOKの担当の方に仕様毎に検討をしていただきました。
また、改修部の躯体補強が一通りできた段階で構造躯体の”接合部検査”ということで現場まで足を運んでいただいて施工の確認を行なっています。

 

【温熱改修】

既存建物は無断熱の建物でしたので、断熱改修も合わせて行っています。床面は基礎断熱を採用し、カネライトフォーム50mmを使っています。
壁は既存の柱とその受け材の間にパーフェクトバリアを適宜充填し、約150mmが充填できました。天井はパーフェクトバリア100mmを二重で敷き込んでいます。
外部建具は性能のいい樹脂サッシのLow-eペアガラスを新たに取り付けています。一部、景観の指定で木製建具を使用していますが、Low-eペアガラスを採用しています

現行の基準を大きく上回る断熱性能にすることができました。

 

【建物の景観を残す】

写真は大正時代に撮影されたもので、今井町のまちなみ整備事務所に残されていました。
今回の改修工事では、このころの景観に戻すことに対して補助金が出ました。

全面道路側は、調査報告の写真からもわかりますが二階が増築され本来の景観からは大きく異なる状況でした。
今回、今井の町並みに合わせて竹小舞を編んで土壁を塗り、真壁の外観を再現するよう指定がありました。
また瓦についても町並みを見ながら、かなり細かく打ち合わせをしています。

この景観にかかる工事は、役所の方ともかなりの回数のやり取りを行いました。その中で、この町並みにかける熱い思いが伝わって来ました。
また、その工事を推進するために補助金の確保に取り組む姿勢などを目の当たりにしていると、こういう人がいるからこそ今井の町並みが改善されていくのだなと、その重要性を肌で感じました。

【竣工写真】

 

外観は他の長屋のデザインに合わせ、町並みの調和が図られています。
南側の長屋だけ、すでに取り壊されて歯抜けになってしまっているため、南の外壁には窓を設置することができました。

北棟の土間サロンからダイニングを見た写真と、ダイニングの写真です。
ダイニングが一段下がっているため、土間サロンからダイニングの奥まで視線が通ります。
また、ダイニングは天井が高い気持ちのいい空間にすることができました。

南棟の道路側の土間の写真と、ダイニングの写真です。
土間はお店などができるよう、収納を多めに用意しています。
ダイニングはデイベッドを設け、日中ダイニングでくつろぐことができます。

 

規模が大きく、時間も長くかかりすごく体力がいる現場でしたが工事を完了することができました。
ここに至るまでに、調査からたくさんの方々にご協力いただきまして、感謝をしております。

日野弘一