投稿日:2016年12月02日

住宅医スクール2016熊本 震災関連特別講義ダイジェスト05


11/26(土)、住宅医スクール2016熊本(第5回)開催しました。

今回の第5講義(ゲスト講義)は、「熊本地震と伝統木造~伝統木造被害の調査分析状況報告」と題して、すまい塾古川設計室(有)の古川保先生に講義して頂きました。その概要についてご報告します。

(滝口/住宅医協会理事:スクール熊本担当)

 

熊本地震と伝統木造~伝統木造被害の調査分析状況報告

古川保氏/すまい塾古川設計室(有)代表取締役

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地元の一被災者として活動をしているが、全てを見た訳ではなく、この度の地震の総括は私にはできないので、自分が見た範囲で、また伝統構法という視点から考察したことをお話ししたい。

 

瓦の家は地震に弱いのか

震災後、調査に入った多くの研究者が瓦の家の被害が多いと言い新聞もそう伝えたが、瓦の家が多いので被害が多いのはあたりまえ。また古い家ほど被害も多かったが、古い家が弱いのではなく古い基準を採用しているから弱かったのである。墓石に例えれば、新旧は関係なく縦長、横長の形状によって倒壊が決まる。

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阪神大震災以降、2000年に瓦組合が「瓦施工ガイドライン」を作成したが、この工法によるものは被害が少ない。つまり瓦が悪いのではなく瓦の施工が悪い。また法律だと直ぐに抜け道を考えるが、ガイドラインは皆それに向かって行こうというものなので、とても良いやり方である。

益城町でも伝統木造の瓦の被害は多かったが、屋根だけの被害が多い。棟瓦が落ちた程度で躯体は大丈夫。瓦も100年前の物が多く、既に葺き替え時期に来ていたものである。

また、重い瓦が弱いので軽い屋根に、と言って屋根を葺き替えるよりも、耐力壁補強に費用をかける方が利口である。瓦は100年もつが軽い屋根はおよそ30年程度しかもたない。

軒を短くした方が軽くなり有利という人もいるが、それで良いのか。一長一短があり、それらを判断するために我々専門家がいる。

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構造や壁倍率で家の強さを判断するのは間違い

木造が弱かったという声を耳にするが、ちゃんと数えた人はいるのか。自分の近隣の状況だけを見て判断している人がとても多い。唯一、調べたものに学会による益城町の悉皆調査があるが、1980年以降の全壊倒壊率は木造が25.9%、S造が20.9%であまり変わらない。また地域が違ったらどうだったか。このような状況で木造が弱いという報道はやめるべきである。

また、壁倍率を1.5倍にすればよいという話があるが、単純に1.5倍すれば良いというのは間違い。1階と2階の形状により必要な耐力は異なる。

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修理がきかないRC造

熊本市内のRC5階建ての市民病院も建て替えになった。被害は1階の柱のみだが、柱だけ取り替えるわけにもいかない。2階以上は見るからに健全なのに取り壊しはとてももったいない。それに比べて木造は限りなく修繕が可能である。

 

柱の引き抜き

接合部の引きちぎれが報道され、もっと強いボルト等にすべきと思う人が多い。接合部を強くするのも一つの手だが、梁を大きくして押さえ込みを強くするのも有効である。

接合部を強くすると土台が壊れるなど、必ずどこかにしわ寄せがくるので、全く被害がない家はあり得ない。

また、とめつけないと横へ移動してしまうが、動くことによってエネルギーが吸収され、内部の被害は少なかった。想定外の地震が来ても動くことによって被害を減らし、また戻すことができることは、伝統構法の利点である。

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見える被害

真壁造りの家は被害が見える。また木造は揺れて元に戻る。傾いた変形が残留している障子は生き証人。調査では1/20で全壊となるが、この障子は1/15傾いて戻ったという証拠である。

また、耐震、免震、制振とあるが、耐震は固く強くすることで、制振は揺れることで抵抗する。免震は想定を超えると壊れてしまう。耐震、制振、どっちが強いとは言えないが、災害の多い日本には、自然には負ける、いかに逃がすか、という国民性が昔からあるのではないか。

修理のし易さで考えると、筋かいも筋かいが壊れれば良いが躯体を壊す場合がある。躯体を直すのはたいへん。瓦や障子は壊れても交換しやすい。下駄も鼻緒を弱く作る。込み栓も込み栓が壊れるのが良い。弱いところを作って交換できることは伝統構法の極意。

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シロアリ対策でも、風通しの良い石場建ての床下が理想的。薬剤利用は過去何度も危険性が指摘される度に薬剤が変更され続けていて信用できない。薬剤に頼らず、年に1回床下を点検すればよい。

 

見えない被害

最近増えてきた大壁は中が見えない。今回の地震でクロスがやぶれた被害も、壁内部に被害があり耐力が減衰している。クロス屋だけで補修してしまうと耐力は戻らない。紙クロスが悪かったので伸びるビニールクロスにしようという人までいる。

また、今回露出した断熱材もほとんど真っ黒。熊本では955㎜の住宅モジュールが多いが、そこに910㎜モジュールの断熱材を充填し、隙間ができてしまっているものが多いのでは。

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建築のゴミを考える

今回の地震の廃棄物処理場は県内では足りず、隣県にお願いに行くことになる。伝統構法の家の廃棄物は土、藁、木、竹で、埋め立てゴミは僅か。

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一番厄介なのは石膏ボード。廃棄すると硫化水素が出るので特定廃棄物になっていて処分費が1枚600円。製品は1枚350円と安いが処分費まで含めて販売するべき。そうすればスギ板も勝負できる。

 

柱のヒビは大丈夫か

表面上の乾燥割れは強度低下しないことが証明されている。高温乾燥により内部割れを起こしている材料は、地震により貫通割れを起こしている可能性も高い。真壁であればヘラ等で確認できるが大壁では確認できないのは困ったことである。

低温乾燥というやり方もあるが、とてもお金がかかる。

 

液状化からは避けられない

震度6強以上になったら液状化はどこで起きてもおかしくない。前震では1,500か所、本震では4,000か所。熊本市内であればどこでも起こると思うべきである。RC造などの修復はアンダーピーニングなど莫大な費用と時間がかかる。足固めのある伝統構法であればジャッキアップ工事も安価にできる。高額な杭をすすめるより修繕のし易さを考えていた方が賢明である。

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また、ハザードマップを見る際も、地震の発生率ではなく、表層地盤増幅率を注視すべきである。

 

伝統的構法の家の意義

先人の地震などの経験から、壊れ方を知っていて大事なものは壊さないという伝統構法は超合理的である。修理しやすい、ゴミにならない、見える構造、変形性能の高さ、沈下対策の足固め、耐用年数など、これからの家づくりは伝統的構法に解がある。

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以上

(※資料は古川先生の講義資料より抜粋)