投稿日:2016年08月24日

事例報告(改修事例)2016-60


神奈川県「mokusei_House」改修事例報告

報告者:アトリエフルカワ一級建築士事務所 古川泰司

 

・設計 監理:アトリエフルカワ一級建築士事務所

・施工:株式会社堀井工務店

・設計期間:2011.04~2011.07

・工事期間:2011.08~2014.10

・所在地:神奈川県川崎市

・建築時期:1970年ごろ

・構造:木造軸組2階建て

・床面積 1階31.14㎡、2階24.84㎡

計 55.98㎡/16.9坪(改修工事は主に1階)

・工事費:850万円

 

 

■一人で暮らすお母様のために

一度はご病気で身体が不自由になられたために息子さんご夫婦のマンションで一緒に暮らしていたお母様ですが、身体の回復とともにご自宅に戻られたいと思うようになりました。早くに亡くなられたご主人と一緒に過ごした自宅でもう一度暮らしたいと願うようになったのです。ご自宅に戻られたかったのはそればかりではありません。何と言っても、そこには園芸好きのお母様が手塩にかけて育ててきたお庭の植物たちがいました。息子さんのマンションにはお庭がありませんでした。お母様は、息子さんとのマンションぐらしで、ご自宅のお庭の植物たちと再び一緒に時間を過ごしたいという思いが強くなっていったのではないかなと思います。

 

しかし、戻るとはいっても、今まで暮らしていたお宅は、間取りはお世辞にも使い勝手が良いとはいえませんでした。生活動線も混乱しており収納もあちこちに点在していて納まっていませんでした。玄関も開き戸で道路とのスペースも狭く出入りも大変でした。さらには、洗面所が浴室の中にあって部屋と浴室の段差が30cmと日々の使い勝手も悪く、ましてや半身に不自由が残るお母様にはそのままでは暮らすことが困難なお宅だったのです。

 

そこで、お母様がひとりで暮らせるようにと、ご実家の改修計画が始まったのです。

 

■耐震補強計画と間取り提案

改修の相談については、最初は、新聞の折込チラシで知ったリフォーム会社に相談し、次に大手リフォーム会社に相談されたそうです。ただし、どちらの会社も耐震性能を確保するためには建物の角の連続窓のどちらかを耐力壁にしないと駄目だという提案でした。しかし、この連続窓は居間と庭との一体感をもたらしてくれている大切なものです。お母様も耐震性能は欲しいけれども、せっかく庭の木々との生活を取り戻すために戻るのに庭との一体感が無くなってしまうのでは本末転倒です。リフォーム会社の提案にがっかりされたお母様は改修工事への気持ちも無くしてしまっていました。

 

そのような理由で中断してしまっていた改修計画ですが、やはりなんとかならないものだろうかと息子さんの方が私のところに相談に来られたのでした。

 

さっそく、現況調査と耐震診断を行いました。耐震改修計画を練りながら、お母様がお一人で暮らすための生活改善の提案を考えました。

 

その結果、耐力壁をバランスよく確保して2階床面の水平剛性を確保することで、角の連続窓はそのままでも耐震性能を評価点1以上にすることが出来る事がわかりお母様に大変喜んでもらえる結果となりました。改修工事も納得の内容ですすめることが出来たのです。

 

住宅医は建物の診断をするプロでありますが、改修して直すことでより良い住まい方が出来るように、そして、現況の豊かさな生活を損なうことのない提案ができなければだめではないかと思います。改修工事は技術力も大切ですが住まい手の生活を豊かにする提案力も大切なのだと思います。

 

■収納とバリアフリーデザイン

元の住まいでは収納があちこちに点在していましたので、何がどこに入っているか煩雑になっていました。そこで、玄関に近いところに収納スペースをつくり、まとめて収納ができるようにしました。ここは長く愛用されてこられたタンス置き場でもあります。

 

いままでは、6帖の畳の和室ひと部屋で就寝も食事もされていたお茶の間生活だったのですが、布団の上げ下ろしも大変ですし床座の生活も大変です。改修にあたりベットと食卓テーブルの生活にも変えることになりました。

 

就寝分離をはかるために、使っていないもの、捨てられないもので一杯だった外物置を整理して、室内スペースに転用し、ベットを置くスペースを確保しました。

 

また使い勝手の向上を考え、ベットスペース、ご飯を食べてテレビを見る居間スペース、そして、キッチン、トイレお風呂の水回りが一本の導線でつながり他の動線と交わらないような生活動線を整理したワンルーム構成としています。

 

バリアフリーの考えとしては、段差をなくす、少なくすることは当然として、こだわりはドアをすべて引き戸にしたことです。特にトイレは引き戸にするだけではなく正面入りから横入りしています。横入りは室内が広く使えますし、介助が必要になった時も介添えがしやすくなります。

 

■効果を発揮した温熱改修

庭に面した角の連続窓は木製のガラス戸でした。雰囲気もとても良く、木の格子から眺める庭の木々の姿は格別なものがありました。当初はその雰囲気を残したいと考えていましたが、気密断熱性能を少しでも上げたいということになり、ペアガラスのサッシュに交換することになりました。

 

解体工事が終わってびっくりしたことは壁の断熱材がまったく入っていなかったことです。床下の断熱材が入っていないことはよくあったのですが壁に入っていなかったのにはびっくりしました。外壁は亜鉛鉄板一枚のサイディングで室内はラスボードに漆喰塗の仕上げでしたので隙間風もどんどん入ってくるような状態で冬はさぞ寒かったに違いありません。

 

今回の改修では1階のサッシュはすべて交換し、外壁面に断熱材を充填し、床下にも断熱材を充填しました。また、隙間風の侵入思想な箇所を徹底的に塞ぎました。

 

気密性能、断熱性能は新築に比べれば心もとないものではあるとは思いますが、もともとの仕様から比べれば格段に性能アップすることが出来ました。

 

お母様も冬に暖かくなったと喜んでおられましたし、改修計画で風の通り道を考えて窓をつけたことも効果を発揮してくれたこともあり夏も涼しくなったと、喜んでくださっています。

 


改修前 平面図

改修前 平面図

 

改修後 平面図

改修後 平面図

 

 

改修前 庭と一体感をもたらす木製の角の連続窓

改修前 庭と一体感をもたらす木製の角の連続窓

 

 

改修後 改修前と窓の大きさと位置は変えずにアルミサッシュに交換。気密断熱性能の向上を図った。

改修後 改修前と窓の大きさと位置は変えずにアルミサッシュに交換。気密断熱性能の向上を図った。

 

 

 

 

改修前 キッチンのレイアウトが大変使いづらく、コンロの近くにも物が溢れ防火上も危険な状態だった。

改修前 キッチンのレイアウトが大変使いづらく、コンロの近くにも物が溢れ防火上も危険な状態だった。

 

改修後 キッチンの収納を冷蔵庫や洗濯機も含めて一体考え整理して使い勝手を向上させた

改修後 キッチンの収納を冷蔵庫や洗濯機も含めて一体考え整理して使い勝手を向上させた

 

 

改修後 外物置を室内スペースに転用して寝室コーナーを作った

改修後 外物置を室内スペースに転用して寝室コーナーを作った

 

 

 

 

改修前 浴室が廊下から30cmも下がっており、そこに洗面台もあった。

改修前 浴室が廊下から30cmも下がっており、そこに洗面台もあった。

 

 

改修後 洗面所を別に設け浴室と廊下の段差は10cmとした

改修後 洗面所を別に設け浴室と廊下の段差は10cmとした

 

 

改修後 洗面所から引き戸の横入りでトイレはアクセスできるようにした

改修後 洗面所から引き戸の横入りでトイレはアクセスできるようにした

 

 

 

 

改修前 外壁に断熱材がまったく入っていなかった

改修前 外壁に断熱材がまったく入っていなかった

 

 

改修後 外壁にロックウール100mmを充填した

改修後 外壁にロックウール100mmを充填した

 

 

 

 

改修前 既存浴室まわりの柱が蟻害にあっており激しく劣化していた

改修前 既存浴室まわりの柱が蟻害にあっており激しく劣化していた

 

 

改修後 できるだけ柱を新しいものと取り替え、耐力壁部分の基礎を新たに作った

改修後 できるだけ柱を新しいものと取り替え、耐力壁部分の基礎を新たに作った

 

 

 

 

改修前 横架材の接合金物が入っていなかったので新たにつけた

改修前 横架材の接合金物が入っていなかったので新たにつけた

 

改修後 筋交いをいれて耐震補強をした

改修後 筋交いをいれて耐震補強をした

 

 

 

投稿日:2016年08月02日

事例報告(改修事例)2016-59


大阪府「高齢期に向けてのリフォーム」改修事例報告
報告者:THNK一級建築士事務所 北聖志
・設計監理:THNK一級建築士事務所

・設計期間:2014年1月~8月

・工事期間:2014年9月~12月

・所在地:大阪府堺市

・建築時期:1976年

・構造:木造軸組2階建て

・床面積 1階42.12㎡ 2階33.62㎡ 合計75.74㎡

・概要
中古住宅として購入し以来約25年間住んで来た戸建住宅を、行政の耐震改修助成等を利用し高齢期にも住み続けられるように改修しました。

 

 

■改修に至るまで

相談を受けたご夫妻は共に60代前半。まだ二人共地域の介護現場で働いておられます。家族は子供2人で1人は結婚して家を出ています。元気なうちにじっくりと高齢期の住まいについて考えておきたいということでした。その過程でマンション等に引っ越すことも考えたそうですが、やはり人間関係ができている今の場所で住み続けたいということで、改修か建て替えを考えておられました。

敷地はミニ開発された区画で間口二間で奥に伸びた2階建てで、建ぺい率はすでに一杯でした。建て替えても1階で使える形状・面積は変わりないということと、費用も抑えたいということで、改修による検討を進めました。改修計画に当たっては住宅医協会を通じて詳細調査を依頼しました。

改修前外観写真
写真奥右が改修前の建物

 

■要望と改修内容
大きな要望としては高齢期に住みやすくということと、耐震性を向上したいということでした。具体的なところは、現在のハシゴのように急な階段を緩やかにしてほしい、1階が昼間でも暗く照明をつけているので明るくしてほしいなどの要望がありました。

高齢期と言えどもまだまだお元気なので、就寝については段階的に考えました。当面は2階で布団で寝ることにし、夜間のトイレにはすぐに行けるように新たに2階に便所を設けました。階段は位置を変更し緩やかにしています。上下が不安になって来たら下階で寝られるように考えています。

食事はこれまで畳の部屋でちゃぶ台でユカ座でしたが、将来的なことも見越して改修を機にダイニングテーブルでイス座に変えてもらいました。
現在ご近所とも親しく、間取りとしては改修でより気軽に関係を持てるように、そして1階を明るく使えるようにということで玄関と居室を一体的にできるようにしました。

 

改修前階段写真
ハシゴのように急な階段

 

改修前台所写真
昼間も暗い1階台所

 

改修前居間写真
改修前の居間はユカ座で浴室への通過動線

 

改修前平面図

改修前平面図

 

 

改修後平面図
改修後平面図

 

改修後玄関写真

改修後の玄関。体が不自由になった場合は居間の掃き出しが2枚引きで大きく開放できるのでそちらを使っての出入りも考えている。

 

改修後玄関中写真
太鼓障子を開放すると玄関と居間が一体的になる。

 

改修後居間写真
建具を開放するとダイニングから玄関までを見通すことができる。

 

トイレについても現在は廊下を介して入るようにしていますが、介護が必要になってきたときには引戸の位置を変えて廊下も含めて大きく使えるように考えています。(改修平面参照)より体の状態が厳しいときには、1階居室の押入れ位置に改修前のトイレの排水管を残しているため、トイレを設置することも可能です。

 

トイレ廊下写真
右の建具はFIXで取外し可。便所引戸は手前の廊下とダイニングを仕切る位置に変更可

 

工事範囲としてはコストを抑えるためにも外周り(外壁・屋根)は塗装のやり直しに留めています。

耐震性に関しては短辺方向の壁強さを確保するため、短辺周りのみ無筋の基礎に添え基礎を行っています。それにより床下が区切られてしまうので、押入れの下に複数の点検口を設置しています。

基礎改修写真

基礎の改修

 

断熱性に関しては無断熱、単板ガラスであったものをグラスウール充填、ペアガラスサッシに変更しています。

 

■改修効果
改修を行うにあたって行政の耐震改修と省エネ改修助成を利用したため、設計費用含め150万円の助成受けることができました。

また改修後の住まい手の感想としては、すごく温かくなった、サッシを閉めると静かで裏の道路の音が気にならなくなった、1階が明るくて家で過ごすことが楽しくなった、などのコメントをいただきました。

改修前1年分と改修後1年分の光熱費のデータもいただき比較してみました。元々家計調査の標準値より光熱費は少なかったのですが、さらに年間の光熱費が27500円安くなっていました。1階にはガス温水床暖房を全面的に入れたこともあり、冬の光熱費はほぼ同じでしたが、断熱性の向上やエアコンを新しくしたことで夏の電気代が節約されています。

現在住んでいる家を改修する場合は、現状に対して具体的に要望があり、それを改善できたかがわかりやすい部分も多いですが、事前に調査を行うことで、耐震性や断熱性といった見えにくい部分も数値で示せてよかったと思います。

前後チャート

改修前後の性能チャート(赤-改修前・青-改修後)